ただ、生きていたいんだ。

 生きていたいからこれを書いています。生存本能だけがぼくを生かしています。

 子どもの頃は普通の人、くらい簡単になれると思っていました。それどころか自分がいかに特別な人間で、まだ見つかっていない才能があるんだと疑いもせずに日々を過ごしていました。
 実際、ぼくは身体的障害や精神的障害のない、健常な人間です。視力が低いので眼鏡をかけていますし、多少色覚に問題があり細かなグラデーションの違いがわからないということはありますが、世間一般からすれば全く問題のない「普通」の人です。きっとぼくのような人は本当にたくさんいて、社会の中で当たり前に生きています。
 ストレス耐性が低くメンタルが脆弱で思考が後ろ向きなだけの、いたって健康な人間なのです。両親は健在ですし、借金はなく日々を暮らしていくことができています。
 普通、って言葉は簡単な言葉のくせに、体現することはおそろしく難しい言葉です。普通のぼくはどうして必要とされないのでしょう。必要とされないなら普通じゃない。普通じゃないけれど、異常ではないのです。
 不思議です。人はどうして生きていられるのでしょう。死ぬことが怖いから生きているのだとしたら、死を遠ざけるために努力をしています。死を迎えようと橋や海に向かっては帰ってくるぼくは、死を近づける努力ばかりしてしまっています。

 昔から無駄が大好きでした。配られたミスプリントや使われなかったストロー。体育館の壁を叩いて音の違う場所を探すこと。一番早い階段の上り方と降り方を探すこと。校庭に生えている葉の繊維の一番綺麗な抜き方、雨の日に一番良く滑る廊下の場所。きっと何にもならなかった無駄を愛していました。いつの間にかぼくは無駄なぼくを愛するようになっていたのかもしれません。無駄な人生を愛せるようになるまではもう少しだけ時間がかかるのかもしれません。

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