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モノ作りの考え方 #10(鍛造ピストンその3) 

鍛造ピストンは純正より軽かった

私がコンタクトを取っていたワールドレコードを多数持つ、米国のレース屋さんの返答は、私のボアのクリアランスは90/1,000mmのピストンクリアランスでした。友人がボートレースの鍛造ピストン用にボーリングした事のある内燃機関屋さんから聞いたのは、「鍛造は膨張率が高いから、鋳造よりもクリアランスは大きく取らないと焼き付いちゃうよ」という回答でした。
「やっぱりそうだ、鍛造で素材を圧縮している分、膨張率が高い。理にかなっている」、「ワイセコの取説の数字が間違っているんだ」(当時)というのが、調べた結果だったのです。
空冷だから純正の鋳造ピストンのクリアランスが75/1,000mmだったと思います。ワイセコも同じ位の指定か、もう少し少なかったと思います。
鍛造とは、真っ赤に熱した素材を型に入れ、数百トン以上でプレスします。簡単に言えば圧縮するのです。すると金属の分子の結合が密になる、つまり、強度が上がる。
なので、過酷な使用条件のレースでも壊れにくい。鍛造はピストルのリボルバーのシリンダー(回転弾倉)等にも使われています。だから、中学生の時からその製法だけは知っていました。

何度目かの輸入した際のケース

圧縮されている分、分子が多い訳ですから膨張する=クリアランスが大きくなるという理屈です。ちなみにこれは数十年前の話で、最近は鍛造でも膨張率が低い物もあるらしい…正直良く知りません。輸入したWOSSNERはどうなんだろう?
ご存じの方は教えて欲しいです。
私より先にワイセコを組んだ友人はその膨張率の知識がなく、ワイセコの説明書通りでボーリングを指示した。内燃機屋さんも、おそらく知識がなかったのでしょう。

ワイセコの裏側は型から抜いたままの状態

プロなんだから、ピストンの裏側を見ればすぐ鍛造だと分かるのに…。
知識があれば、「お客さん、これは鍛造だからもっとクリアランスを取らないとダメだよ」と言うはずです。
鍛造は金型に入れてプレスするという製造方法だから、鋳造のように複雑な形状が作れません。例えば裏側のピストンピンの部分は、緩やかなテーパー形状になっています。FRPと同じで、そうしないと金型から抜けなくなってしまいます。
写真の通り、ワイセコはピストンスリーブエンドだけしか後加工はしていません。新品なら素材が延びた形跡が見て取れます。
それで、問題はクリアランスを何ミリにするか?レース屋さんの情報の90/1,000でいいはずだけれど、正直不安がある。だって、知人でワイセコを組んで、ある程度走っている人はいません。
結局、安全策で100/1,000に指定して内燃機屋さんにボーリング・ホーニングを頼みました。
ワイセコを輸入したのをクラブの仲間や友人にも伝えると、こんな意見がありました。「ワイセコは鍛造だから、重いよ」と。それは思い込みで、前提条件があるんです。
もし、同じ体積なら正解です。例えば、直径50mmの球体。同じアルミ素材だとして鋳造と鍛造なら鍛造が重い、圧縮していますから。でも、実際にノーマルのピストンとワイセコのピストンの同じボアで量ったら、ワイセコの方が軽い。なぜなら、強度が出た分厚みが薄く出来るからです。
それを説明しても、鍛造は重いと思い込んでいてなかなか聞き入れなかった人がいました。
なので、会報ではその重量の違いを写真入りで掲載しました。
ボーリング・ホーニングから上がって来たのはいいが、どうやって鍛造ピストンの慣らしをするか、リスクが少ないか、いろいろと考えました。
鍛造ピストンについては未だに誤解があるようですので、続きを書きます。
簡単に手に入る=気楽に使えるという訳ではありません。
今までの様々な経験を生かしてマジ軽ナットをネット販売しています。


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