私がゲンロン友の会会員でいる理由

ゲンロン友の会の更新が伸びないと聞いて、すこしでもお役に立てればと、微力ながら書きました。

私はピアニスト・音楽批評家です。現在ハンガリーはブダペストに住んでいます。いつからゲンロンの会員か覚えていないのですが、ゲンロン創業以前のコンテクチュアズに一時期入り、その後留学を期に一旦抜けましたが、海外発送もしてくれるということを知り入会し直した記憶があります。

さて、コンテクチュアズに入っていたということからもわかるとおり、私はそれなりに長い東浩紀読者です。高校生の頃、たぶん2006年か07年あたりに『動物化するポストモダン』を読んでおり、それ以来新刊が出るたびに買っては読んでいました。学生の頃は『動ポモ』と『ゲーム的リアリズムの誕生』に感化され、美少女ゲームを年100本プレイするという謎行動に出たこともあります(笑)。ですが同様の行動をほかにもたくさんしているので(蓮實重彦を読むために映画を年100本観たり)たんに私の行動様式が修行的?オタク的?なだけで、とくに東さんだけを熱心に信望していたわけではありません。

それで、そんな私がなぜ友の会に入ったかというと、これも自分語りになって恐縮なのですが、私の経歴と関係があります。この職業にしてはまあまあ珍しく、私はブダペストに留学する以前は日本の一般大学・大学院の文学部にいました。それでいろいろあって、いちどちゃんと演奏を勉強しようと思って留学しました。

当初はこちらでは演奏の勉強に集中しようと思ったのですが、やはり出自的に日本のアカデミズムが気になってしまう。でも勉強を続ける機会も時間もないし、かといってあまりに一般向けのYouTubeなどでは物足りない。しかも留学開始当時(2014年)はいまのようにオンライン講座が充実してはいませんでした。

そのころちょうどゲンロン完全中継チャンネルが活発化してきて、東さんとさまざまなゲストが自由に語るのを見聞きし、そこに開かれたアカデミズムをみつけた気がしました。そしてそこで知った著者の本をKindleで買ったり、あるいは一時帰国の際に入手し持ち帰ったりしていました。とりあえずこの場所を追っていれば、海外にいながら日本の「アツい」知的シーンに乗り遅れることはない、という安心感がありました。

私がそれ以来ゲンロン友の会の会員でいるのはそのときの信頼感のためです。いまでは海外の郵便事情の悪化で電子版の会員に切り替えましたが、海外発送の手配等もとても丁寧に対応していただいていました。

さて、ここからが本題です。私はいま述べたように私は長く東さんの読者をしていますが、けっして東さんの発言や行動のすべてに納得しているわけではありません。もちろん社長の上田さんやゲンロンのスタッフの方についても同じです。なるほどと思うことも、それは言い過ぎでは?ほんとうに?と思うこともあります。

でもそんな異同は本来とてもちいさなことのはずです。私は彼らやゲンロンのみなさんの仕事を信頼しています。だから友の会の会員として彼らの活動を応援しています。

昨今、人を支持するということはあっても、人を信頼するということはなかなかなくなってきました。すくなくともネットを見る限りそう思わざるをえません。「ツイッターの発言に納得がいかない、だからこの人の本は読むに値しない」という態度や言動が目につきます。ですが私は「ツイッターの発言には納得がいかない、でもこの人はこういう本を書いているから信頼できる」という方が大切で、豊かなコミュニケーションにつながると思います。

たしかに意見の相違は感情的に気持ちよいものではありません。ですが自分の頭で考えるということをしていれば、ちがいが存在することはあたりまえのはずです。もしすべての意見が同じなら、それはほとんど信仰です。大切なのは支持や信仰よりも、信頼です。『観光客の哲学』や『訂正可能性の哲学』のような本を出版しているから、ゲンロンという場を維持しているから、応援したい。私にはここからはかならずおもしろいこと・重要なことが生まれるはずだという信頼があります。事実その仕事の充実ぶりには目を見張るものがあります。ロシアのウクライナ侵攻がはじまる以前に、ロシアの現代思想・政治思想を特集した雑誌がいったいいくつあったでしょうか? 文系・理系の枠なく次々とゲストが登壇できる場がいったいほかにあるでしょうか?

いわゆる「ゲンロン界隈」の動向をネットで知り、(全面的には)支持できないから、と入会を迷っている方がいらっしゃれば、ぜひ彼らのつくった本を1冊手にとってみてください。その丁寧さに触れれば、彼らの仕事を信頼することができるはずです。会員であるからといって同じ意見を持つ必要もなければ、会員だからこその意見・批判も言えると思います。そしてなによりクリエイティヴな場を応援するのはたのしいことです。その自負と期待とを、いっしょに感じられる人が増えればいいなと思います。

長くなりましたが、いち会員からの感想でした。みんな、入会しよう!

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