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兵庫県神戸市、阪神元町駅地下の飲み屋街「有楽名店街」を忘れない

 兵庫県神戸市中央区、元町。多くのお店が建ち並び、多くの人が行き交う繁華街……の地下に戦後間もない頃から続く飲み屋街があることをご存知でしょうか。
 阪神電鉄の西の終着駅である元町駅は地下に東と西の改札がありまして、その改札の外側、改札を結ぶように「有楽名店街」は存在します。

 公式サイトの「有楽名店街と神戸元町周辺のあゆみ」によりますと、有楽名店街は戦後間もない1947年に「阪神メトロ街」として開業し、12年後の1959年に「有楽名店街」へ名称変更されたそうです。阪神電鉄の公式サイトにある2014年4月の構内案内図では「阪神元町駅地下街」という表記になっていますが……。なお、自治会「有楽名店会」が発足したのは1991年頃とのことです。
 もう少し読みますと、昭和30年代にはダンスホールがあり、主な客層は港湾で働く人や元町近郊の官庁関連などのサラリーマンだったそうです。「有楽街が一番賑やかであったといわれている」と書かれています。
 1971年には神戸市電が廃止。昭和50年代にはWINS神戸A館……場外馬券売り場ですね……が完成。「A館が出来る前は阪神会館(元町阪神ビル)があり、ビル内には映画館(ニュース映画館)、喫茶店(Uコーヒー)、売店などがあった。その後老朽化などを理由に昭和50年頃取り壊され、暫定的にタクシー乗り場(神戸阪神タクシー)として利用されていた」そうです。
 1984年には三越神戸店が廃業。1985年には地下鉄山手駅、現在の県庁前駅が開業。1995年には阪神・淡路大震災が発生したものの「早い段階で営業再開」されました。
 そして2014年……「11月1日付で家主より有楽街全面閉鎖の通知。有楽名店会として存続活動中」ということです。

※ 2020年3月15日の時点で公式サイトのドメインは某国に取られてしまっていました。2023年7月17日現在は何も表示されません。

 結局のところ有楽名店街は2023年9月末をもって閉鎖されることになりました。

 有楽名店街を忘れないために、有楽名店街を訪れた記録をここに残します。

※ この記事は「トリップウォーカー」に掲載されていたものを書き直し、また追記したものです。オリジナルの記事はこちらから。


2018年12月15日

 元町駅の東改札から有楽名店街へ向かいます。大きなディレクトリが掲げられていました。多少の空き店舗はあるものの賑わっているようですね。

 クリスマスが近いので大きなクリスマスツリーが飾られていました。
 私の悪い癖で、こういうものを見ますとどうしてもお金や労力のことを考えてしまいます。クリスマスツリーを購入するのはタダではありませんし、保管する場所もタダではありません。飾り付け……は毎年付けたり外したりしているわけではないかも知れませんが、保管している場所からここまで出して来るのも誰かがやらなきゃいけないわけで。
 あぁ、クリスマスが近いのねと横目で見ながら何となく通り過ぎてしまいがちですが、クリスマスツリーが飾られているというのは有楽名店街にエネルギーがある証拠なのですよね。

 時刻は14時。

 昼間だからか静か……と思いましたら歌声が聞こえもしますので、営業しているお店もあるようです。

 何やら気になる貼り紙がありました。「大人系女子の喋り場」大人系女子って大人か子供かどっちという気もしますがまぁそれは置いといて女性限定でセット料金1,000円。
 有楽名店街はスナックが多くあります。スナックに女性客が増えれば男性客も増えますもんね。公式サイトの店舗紹介を見ますとセット料金は2,000円というお店が標準のようですので、実に半額。これは行かねば! あ、私はおっさんでした。 

 西へ向かって歩きます。

 何か寂しいなと思いましたら、看板のないお店が多いのですね。営業されているお店は最初に見ましたディレクトリの何割ほどなのでしょう。

「光」さん。目立つ看板です。看板にポスターを貼るというあたり、ざっくばらんな雰囲気を想像します。

 蓋……? 窓なのかなぁ。雨戸みたいな? いや屋内ですが。こういう装飾?

 お寿司の「彩季」さん。出前もありとのこと。近隣のスナックからの出前が多そうな予感がします。

「スナック ペペ」さん。独特な文字……もしかして「ペペ」ではないのかも知れません。
 公式サイトを調べましたら「ペペ」で合っていました。

「酒処 よっちゃん」さん。

 こちらは看板が出ていませんでした。営業されていないお店のようですね。よく見ますと……

 昭和によくあったような小窓が渋いですね。現代の新しいマンションやお店ではほぼ見掛けませんよね。昔はお金があったというのか、心に余裕があったというのか。

「AZABU」さん。豪華な雰囲気のドアに惹かれます。外に放り出された椅子は何なのか……。

「八亀珈琲」さんなんですが、看板の真ん中に「酒」はやっぱり場所柄なんですかね。

 営業終了時間は午前0時、時間厳守とのこと。どのくらい守られてるんですかね。
 というか、このような注意書きが通路に、しかも貼り紙ではなくてわりとお金を掛けた造りで掲げられているというあたりに本気の怒りを感じます。守らない店があったのでしょうね……。それか、客に対する戒めか……。

 西の端に着きました。理髪店「阪神理容」さんが営業されています。

扉と南京錠と

 ちょっと気になったことがあります。

「会員制」……はスナックあるあるなのでしょうけど……。

 扉に何かが挟まれています。いつから挟まれているのでしょう……いやそれよりも。

 ところどころ南京錠で施錠されているお店があります。これが閉店したお店ということなんでしょうかね。ディレクトリはメンテナンスされていなかっただけかな?

閉鎖の危機

 最初に書きました通り、有楽名店街は閉鎖の危機に立たされています。

 閉鎖中止を求める署名活動が行われたようで、阪神電気鉄道株式会社宛ての署名が5,826筆、神戸市長宛ての署名が6,565筆集まったとのことです。

 閉鎖の話は新聞にも掲載されたようです。

 まぁ家主である阪神電鉄としては老朽化や安全上の問題もあり、万が一の事故が起こった場合はどないすんねんという話ですものね。私はこういう雰囲気が好きですので何とか残して欲しいと思いますが……。

 しかしまぁ自主的になのか泣く泣くなのか分かりませんが出て行かれたお店もあるようです。

2018年12月1日

 時系列がバラバラで申し訳ないのですが……夜はこのような雰囲気です。

 出入口の看板の電球が光っています。よく見ますと頭に回転灯もあり……回転灯も光ったら結構な迫力ですよね。

 さすがに飲み屋街だけあって昼間とは打って変わって明るい雰囲気です。蛍光灯や電球そのものを購入する費用に電気代は……と考えてしまうのは本当に悪い癖です。ごめんなさいね。

2019年5月25日

 神戸を訪れましたので歩いてみることにしました。

 13時過ぎ……静かです。

「姫」さん。

 何やら力強さを感じる文字です。

 ふと足元に目を向けますと看板が……お料理……? あさ……?

2020年6月20日

 新型コロナウイルスのまん延により想像もしなかった世の中になってしまいました。2020年の4月から5月にかけて兵庫県は「緊急事態宣言」が発出され、むやみに出歩いてはいけない、飲み歩くなんてもってのほかという状況になりました。
 その緊急事態宣言が解除された6月の様子です。

 西の端に提灯と連続旗が吊られていました。元気な雰囲気!

 先の写真はスマホで加工したものです。実際はこのような雰囲気です。

 何度か訪れていますので、気になったところだけ撮影しました。

 扉に……ヒーナツ? ピーナツではないのですね。
 と思いましたが、公式サイトを見ますと「ピーナツ」さんだったようです。「゜」はどこへ……。

 南京錠……。

 赤提灯ではない、お祭りのような紅白提灯というのが良いですね。明るい印象を受けます。

 閉鎖の危機のうえにコロナ禍……これからどうなるのでしょうか。

2023年1月9日

 東の端です。

 残念ながら多くの人が感染し集団免疫を獲得した……のかは分かりませんが、ワクチンや治療薬が開発され、3年前の危機感や悲壮感は随分薄れたように思います。

 客足は戻って来ているのでしょうか。

2013年3月24日

 そういやわりと前にも有楽名店街へ行ったことがあったなぁと思い出しまして昔の写真を探しました。2013年3月24日にも訪れていました。

 ディレクトリを見ますと空き店舗は2店だけ! と思いきやよく見たら上段の左から4店目も空いています。しかしこのディレクトリ、全くメンテナンスされていないわけではなかったのですね。

 東の端です。

 何やら派手なお店がありますね。「遊あい亭」さん。昭和レトロな有楽名店街で昭和レトロをモチーフにした居酒屋だったのでしょうか。

 検索しましたら食べログの情報が残っていました。まさにそのような内装だったようです。

 何やら暗い写真で申し訳ないのですが、当時はカメラの設定をいじって暗い写真を撮ることにハマっていたのですよ……。もちろん誰にもウケませんでしたが。

「竹の子」さんに「かな」さん。2018年には見なかった看板があります。
 看板を撤去することももちろんタダではないわけで……。

「光」さんの電球看板が出ています。「光」の文字がワイングラスになっているのが可愛いですね。

 2018年にはなかったように思います「シーボニヤ」さん、「げん」さん、「豆の木」さんの看板。
 そして通路を歩くおっちゃんの後姿がいかにも酔っ払いで愛おしく感じます。

「Again」さん、「呑み処 なべちゃん」さん、その後ろには「ピーナツ」さん。看板がいっぱいありますよ……。賑わっていたのですね……。

「唄処 まってて!!」さん、「あけみ」さん。まってて!! がものすごく気になります。この店で待ち合わせか、歌い終わるまで待っててか……。

 妙に斜めの写真が多いのは、これも当時「真っ直ぐに撮ろうとするとちょっとのズレが目立つので思い切って斜めに撮ろう」という考えだったからです。もちろん誰にもウケませんでしたが……。
 そして色合いが妙なのは、カメラの機能で色調を変えて撮ったんだったと思います。せっかくなので掲載。

 天井は色々剥き出しなんですが2018年にあった色とりどりの電球はありませんね。インフラをメンテナンスするエネルギーのある商店会というのは素晴らしいですよ。

 一眼レフカメラであちこち撮影していましたら、たまたまお店から出て来た方に「こんなとこ撮ってどないするん」と声を掛けられました。
 この頃はまだ閉鎖という話もなく、現代ほどの昭和レトロブームでもなく、わざわざ写真を撮る物好きは少なかったのかも知れませんね。

2019年2月15日「ゆうらく はしご酒」

 有楽名店街の話はまだまだ続きますよ。コロナ禍となる前の明るい話もいたしましょう。
 2019年2月14日と15日に「ゆうらく はしご酒」というイベントが開催されました。

 参加証としてお猪口を購入し、それを持参して14の参加店舗へ行くと日本酒が1杯サービスされるというものです。ただし突き出しは有料です。

 このようないわゆる「バルイベント」は、コロナ禍となる前はあちこちで開催されていまして、私も何度か参加したものでした。
 お店の人から聞いた話では利益は少なく、準備や洗い物が大変でもう参加したくないということでしたが……。

 ただでさえ利益が少ないと言われるバルイベントですがなんと「がらポン抽選会」まで!
 1等はなんと液晶テレビ。メーカーや画面サイズによって値段は様々でしょうけど、安くても1万円はしそうです。2等の小型家電も何台用意されているのか分かりませんが……。5等の「テッシュ」も惹かれます。単なる脱字なのか、それとも。
 大阪の天満で行われていたような100店舗以上が参加される大規模なバルイベントならまだしも、14店舗でポスターを作って景品まで、ってなかなかのエネルギーですよね。

 金魚! 見慣れない装飾にテンションが上がります。

 早速入店……どこの店だったかな。

 友人との参加で、お店の人に「店内を撮らせて欲しい」と言うコミュニケーション能力もない人間ですので、写真は日本酒のラベルだけなのですよ……。

 なんのかんの4軒ほど回ったと思います。

 Twitterで検索しましても「参加します」という人のツイートは見当たらず、また3時間は滞在したと思いますが参加者は他に1組しか見掛けませんでした。イベントとは関係なく普段から来られている方ばかりでした。
 どのお酒も美味しく、また入ったお店はどこも居心地が良かったのですよ。

 あるお店の方に伺った話では、有楽名店街に空き店舗はあるが、もう入居することは出来ないそうです。閉店したらそれきり。まぁ家主は閉鎖の意向ですものね……。

2023年7月15日

「まだ続くんかい」と思われた読者の皆様、続くんです。長々と書くのが私なんですよ……。撮った写真はどんどん載せたい貧乏性なんです。100枚撮った写真から選りすぐりの1枚を選ぶ! なんてのより、100枚全部載せる! というタイプで……ごめんなさいね。

 すっかりお馴染みとなりましたディレクトリです。2018年12月15日の写真と見比べますと変更はないようですね。

 この看板もお馴染みになりました。しかしこれって夜になると誰かがちょっと動かして電気を通して、営業終了の頃に誰かが電気を落として隅に片付けているわけですよね。当番制だったりするのでしょうか。

 見慣れた光景……なのですが

 何度か訪れているわりに初めて見るような、今まで撮影していなかった扉に出会うわけでして。
 以前の写真を見直しますと確かにこの扉はありました。しかしこれって……1軒分の扉? 2軒分の扉? 店の中はどうなっているのでしょう。入る扉によって何が変わるのか。いや、両端の青い部分が扉と思い込んでいるだけで実は違うのか……。

 あるお店に「昭和54年度 食品衛生法による施設検査済証 神戸市保健所」なるステッカーが貼られていました。昭和54年は1979年です。44年前……。

 別のお店には昭和55年度が。生まれてへんわ……。

「光」さん。

 あるお店の扉のそばに盆栽が飾られていました。本物? ではないですよね。
 というか、本当に何度も歩いていたのに気が付きませんでした。あ、以前はここに貼り紙があったのかな……。
 盆栽を隠すように貼られた写真が謎めいています。推理ドラマならこの写真の場所に事件の鍵があるというところなのでしょうけど。

 有楽名店街名物、通路に出された椅子……。

 気になったお店を撮影していきます。

 前に読めなかった看板だ! お料理・寿司 あさ……? 「あさこ」か「あさみ」でしょうか。

 こちらは妙に小さい扉。カウンターの中へ通じている扉なんでしょうかね。お客さんが入って来にくいように小さくしてある、と……。

 そして窓。うーん、何度も歩いているのに初めて見るようなところばかり。思ったより注意して歩いていなかったのですね。歩くときはだいたいシラフだったはずなんですが。

「元町有楽名店街で神戸づくりを飲もう」。

 この豪華な扉……なんですが、2019年5月に歩いたときはお店の名前は「AZABU」さんでした。「あんじゅ雅」さんになられたのですね。

トイレ事情

 ところで有楽名店街のトイレは共用のものなのですが……

 使用禁止になっていました。

 トイレ用給水タンクが破損したとのことです。

 お知らせは有楽名店街からではなく「阪急阪神ビルマネジメント株式会社」からのものでした。もう閉鎖やし修理はせえへんでということなのでしょうね……。

 トイレが使用禁止になる前から貼られていたのでしょうけども、西の端に「小便お断り」のプレートがありました。飲み屋街ですし……ね。

ありがとうございました

 というわけで有楽名店街は2023年9月末をもって閉鎖されます。

 気になる方はお早めに!

 長々と書いてしまいましたがお読み下さいましてありがとうございました。

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