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【ケーキ七不思議】ケーキは誰のものか

自由が丘に、その名も『モンブラン』という店がある。戦前日本で初めてモンブランを出した店。フランスのモンブラン山に一目惚れしたシェフが、現地の市長さんに名前を使うお墨付きをもらった上で、フランスのモンブランを日本風にアレンジしたとこのと。和栗の黄色いクリームがかわいい。

世界で初めてモンブランを出した店は、フランスの『アンジェリーナ』。1984年に日本進出している。こちらは洋栗の茶色が渋い佇まい。あとめっちゃでかい。

始祖の店に比べると、東京のケーキ屋のモンブランは色々工夫を凝らした店が多い。例えば東陽町の『エクラデジュール』のそれは、カップに入ってるのでとろっとさっぱり。千石の『トレカルム』は、ちょっと説明に窮する複雑な構成。なんというか、お客に飽きられることへの恐怖心みたいなものを感じる。

何が言いたいか。
日本における洋菓子の受容と変容とか、ケーキの名前の由来(仏語?英語?)とか、色々ふくらませるけど、ここでは一つだけ。
それは、"絶対的な看板のある店は残る"こと。他の店が頑張ってアレンジに勤しむのに比べて、発祥の店は、"当時の味を守る"だけで評価されてしまうわけで。なんたる格差か。

まだ"箔"のない店はどうするか。素人考えでぱっと思いつくのは、看板商品をつくること。原価低くて独自色あればなおよろし。写真映えすれば更にいいね。"蒲田パンケーキ"とか作っちゃったりして。うーん。。
もしくは、シェフ自身で箔をつけちゃう。コンクール優勝とか、テレビ出演とか。こういうのは、自由が丘『モンサンクレール』の辻口シェフが、大方やりつくしちゃってる印象がある。この人、こないだのNHK連続テレビ小説『まれ』のケーキ監修を務めてた。なんというか、抜け目ないビジネスマンというイメージが強い。いやいい意味で。

自分がパティシエだったら、いま東京に店を出すのは、なかなか勇気がいる。土地代も人件費も高いし、コンビニとか含めて競合も厳しいし、財布のひもも固い。濡れ手に粟みたいなやり方は、もはや長続きしないし、ストーリーをこしらえて箔をつけるだけだと、先達の二番煎じだ。

有名な店にいくと、下っ端のパティシエさんがレジをうってたりする。この人もいずれ海外に修業出て、いつか東京に店を出すんだろうか。それこそオリンピックのときくらいに。遠い将来、ケーキ作りやアイディア出しって、ロボットや人工知能に代替されちゃったりはしないんだろうか。

それでも果敢に出店を挑む人が後を絶たない。もちろん、自分が培った技術で皆の生活に彩りを加えたいという思いが、ベースにあるんだろう。では勝算はあるんだろうか?追い風は多少は吹いてるかも。アルコールやタバコ人口が減る一方で、甘いものはそれなりに増える気がする。コンビニ含めてレベルが上がってると、逆に、美味しいものに感度高い人が増えていくかも。SNSやらブログやらなにやら、実力のある店が認知される間口は広がっている。

あ、そうか、おいしいケーキを食べたければ、食べ手も情報発信すればいいのか。これが、この文章を書いてみようと思ったきっかけです。

たかがケーキ、されどケーキ。時には、人生の転機を彩る素敵な小道具になるし、人間関係のちょっとした円滑油にもなれる。なんのイベントのない日常においても、ひいきのケーキ屋があれば、ささやかな幸せが得られるかも。。

(2016/7/30)

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