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【ケーキ七不思議】名前をつけてやる

仕事の悩みが一つある。海外のスタッフと英語でやりとりする機会が多いのに、自分の名前を有効活用できていない。なんとなく自己紹介を日本のノリでやってしまったせいで、呼称が海外っぽいSaimon-sanではなく苗字で定着してしまっている。どうやって切り替えよう。。

名前といえば、この世にケーキ屋の名前は、およそ2種類しかない。
個人名か。もしくは、それ以外か。

個人名のほうは極めて明快だ。サダハルアオキ、トシヨロイヅカ、イナムラショウゾウ。イデミスギノ、ジュンホンマ。リョーコも、シェフが良子さんだからそのまんま。リョウラは、シェフは亮輔さんだけど、そのまま名乗るのには少し躊躇いがあったんだろうか。わかるわー。と、勝手に共感。

それ以外の名前は、まさに百花繚乱だ。初見では、意味すらおぼつかない店がいっぱい。例えば、『オーボンヴュータン』(尾山台)は、"思い出の時"。『アテスウェイ』(西荻窪)は、"願いが叶いますように!"。
シェフの哲学が伝わってくる素晴らしい名前だけど、一般人が使えば立派なキラキラもしくは中二病になりそう。

『エ』ではじまる名前のケーキ屋は、特にややこしいのが多い気がする。『エクラデジュール』(東陽町)、『エスキスサンク』(銀座)、『エーグルドゥース』(目白)、『エコールクリオロ』(千川) あたりが、さしずめ四天王か。あ、エコールクリオロは、今年5月から『クリオロ』に改名してる。素晴らしい!

『パリセヴェイユ』(千歳烏山)、『ラヴェイユフランス』(自由が丘)の2つは、実にまぎらわしい。キャラかぶってるやん、といつも思う。

そんな中にあって、八王子の名店『茂右衛門』のネーミングは、実に唯我独尊だ。ちょっと仲間意識覚えちゃったりして。
出してるケーキは極めて地に足ついた端正な面持ちだけど、店構えのほうは、家紋やら掛け軸やらが並ぶ独特の様式。パリなんちゃらから更にもうひとこじらせした、強烈な自我を感じずにはいられない。
(ふと思ったけど、製菓業界はむしろ和風な名前が多いですね、不二家とか明治とか森永とかカバヤとか)

名は体を表す。
伝統とコンテンポラリー。初心者とマニア。ご近所と一見さん。どちらに重きをおくか。フランスとかの生粋の文化を日本に根づかせる伝道者か。伝統にこだわらず自分の世界観を展開する表現者か。

あくまで印象だけど、グローバルに展開しているスイーツ屋は、どちらかというと個人名のイメージがあったりする。ピエールエルメ、ジャンポールエヴァン、ピエールマルコリーニ、などなど。思うに、グローバルに展開するには、それ相応の"キャラ立ち"が必要で、その看板になるのは、あくまで表現者としてのヒトのほうなのかもしれない。

縁起でもない想像だけど、パーソナリティーの源泉看板シェフその人にもしものことがあったら、その店は一体どうなるのだろう?
"猿之助"みたいに、誰かが2代目サダハルアオキを襲名するのか。それとも昔のペルシャ帝国みたいに、跡目争いが勃発してしまうのか。他人の名前や渾身のネーミングを冠した店のトップになるのは、どういう気分なんだろう。

いずれにせよ、ケーキ屋の名前には、ケーキ文化発祥の地に対する畏敬と、それを極東日本での生業と決めた覚悟を、びしびしと感じる。
近所で謎の名前のケーキ屋を見かけたら、ぜひ意味を調べてみるのをお勧めしたい。シェフがターゲットにしてる顧客層が見えてくるかもしれない。

ちなみに、2代目への世代交代といえば、麹町の『パティシエ シマ』の島田親子鷹が有名。表面があえてパリッとしてないクリームブリュレ、『クレーム・シマ』がおすすめです。それにしても、店名が苗字でよかったね!

(2016/7/3)

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