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異形の生き物をひたすら作り続けた夏を思い出す秋。

トリックスターが群れをなして歩き回る「トリックスター百鬼夜行」というアイデアは、かなり前から頭の中にあって、何度もイラストのようなものでは描いていた。
多種多様なトリックスター達が歩き回る様を作り出せたら面白いだろうなと思っていた。

黒い三本足の異形の生き物であるトリックスターは、共通する部分もあるが、一人ひとり全く違う、それぞれが違った異能を持った化け物の集まりにしたかった。

これまでも列をなして歩くトリックスターを作ってはいたのが、どこか似た姿のトリックスター達だった。
それは型を使った制作であったので、しょうがなかった。
今回は、百鬼夜行というからには、多種多様な化け物の集まりにしたい、と思っていた。
だから、今回は型を使っていない。

始まりの一人目を作ったのが六月でそれから二ヶ月は、とにかく同じようなトリックスターが出てこないように、新たな姿のトリックスターを模索しながらひたすらに作り続ける日々の始まりだった。
ちょっとした苦行。

自分でもトリックスターを作り続けて手癖みたいなものが出来てしまっていたので、それを打ち破る意味でもとても辛く楽しい制作だった。
十人目くらいで、すでに変な輩が現れ始めて、これはなんだ?という感覚を覚えて始めた。

自分でも「トリックスターとはこういう奴」みたいな固定観念が出来ていたんだな、と気づき始めていて、コイツらが出てき始めた時には、トリックスターって本当に自由な形のない存在なんだと思えて来た。
自分でも、何だコイツらwと笑えて来てしまうほどに。

二十人目くらいまで来ると、もう相当自由になって来て、「こんなんしちゃえ」みたいな感じで、新しい形を作る楽しさ、の方が前に出て来て、ドンドン楽しくなって来た。

三十人目くらいから出て来たのが、このボコボコした奴らで、綺麗に整えることを放棄し始めて、粘土が動くがままに、形を作り始めた。
トリックスターを作り続けたトリックスターズハイ、のような状況だったから出て来たんだと思う。
心の中で「ジャガイモ」と呼んでいた。

ジャガイモ期の中で、一番デカいのが出来て、今回の百鬼夜校の列の中では一番デカい。
餌を求める鯉の様なイメージで、何か人間には聞こえない音を叫んでいる様な奴だなぁ、と。
結果的に、こいつが列の中心の存在になるとは、作っている時には思っていなかった。

五十一人目で、今回の一連の制作で一番デカい奴が出来たんだけど、何か違和感があって。
結局彼は百鬼夜校の列には入らずに別の場所に置かれる。
本当はもっと大きいトリックスターを作る予定もあったのだけど、そうではなく、大きさよりも、多種多様なトリックスターを作ることを優先しようと思った。

もっと違う奴、もっと違う奴、って思うようになって。
コレ一人だけでは自分でもいいと思わない部分もあるのだけど「多様性」という今回の百鬼夜校のテーマに於いては必要な存在なのだと思った。
つまり、百鬼夜校の群れが一つの生き物、トリックスターなんじゃないかと考えるようになってきたのだ。

百人をとりあえず一つの目標に進んでたんだけど、コイツが百人目、と言うのがなにか象徴的だった様に思う。
自分でも「これはトリックスターなのか?」って思ってしまうほど逸脱している様に思えたから。

百人目でフィニッシュとは全くならず、「もっと、もっと」トリックスターの可能性を探究したくなって、
現れた始めたのが、異形のドッグスター達。
異形そのものに近づいている様に感じた。

とうとう搬入展示の期限が迫ってきて、二百人周辺で、百鬼夜校のまとめに入ってきた様な感覚だった。
一回取り止めもなく散逸したトリックスターが再びまとまって行くような感覚。

そして、同時に窯を焚き続けた。
途中窯がエラーを繰り返す日々を乗り越えて、最後の窯を焚き終えたのが展示三日前。

明日は搬入、と作品を梱包しまくっている時に突然頭の中に降って来たのが、百鬼夜校のトリックスターたちをフロッタージュして、それを教室に飾る、というもので、本当に何の前触れもなく頭にバチコーンと来た。
ずっと教室の後ろに「何か」を飾りたいと思っていたのが、前日に突然降って沸いた。

そんな状況だったので、頭の中では何度も何度も展示を繰り返したけど、実際には百鬼夜校を並べる事なく、中之条に突撃したので、行ってみて置いてみないとどうなるか分からない、という状況だった。
でも、展示作業が終わった時に目の前に現れた風景を見て、報われた。

あれから、二ヶ月。
やっと皆さんにはトリックスター百鬼夜校を見てもらえる日がやって来ました。

トリックスター達は誰も来ない第三小で、実は伸び伸びと自由気ままに過ごしていたのかもしれないけれど、きっと人が来るのを心待ちにしていたんだと思う。

本当に見てもらえる日が来て、よかった。

明日からの一ヶ月、異形の生き物達が二百人以上、中之条でお待ちしております。

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