ウィードの意思号は
ニガマトに寄生された冬籠りのクジラ号のなかに
取り込まれてしまった
アストンは信じられないくらいに落ち込んでいた
アストンは柄にもなく激昂した
まるで
初めて出会った時のような
言いようのない狂気を孕んでいた
ミナミは
アストンに発した言葉に
答えられなかった
弱い自分が
アストンの身体に輝く
ダイヤモンドに映し出されているような感じがした
実際
ミナミは
アストンがもう一人の自分に見えていた
しかも
黒い樹皮鎧を纏っている状態の…
もはや
かつて一緒に冒険をした
意思の短剣のことも信じられなくなっていた
黒い樹皮鎧が出て
暴走してしまった原因も
彼女にはわからなかった
短剣を手に取ってから
おかしなことが頻繁に起こるようになった
短剣の所為ではないだろうか…
そんな疑念さえ浮かんできたのだった
アストンはドブナガを睨みつけた
しかし
ドブナガは
それに怯むことなく
床にへたり込みながらも
アストンの目をまっすぐに見つめた
アストンの鋭い眼光は
たちまち和らいでいった
ミナミはドブナガの声を聞いて
少し冷静さを取りもどした
ドブナガが
少し恥ずかしそうに言った
その時だった
何やらステーキの焼けるような音が
あたり一体に広がっているのに気づいた
肝心の匂いは…
鉄が焼けた時のような
胃の奥を抉る匂いだ
アストンは
ドブナガを抱えて
ホッキョクのいる魔道炉室へ向かった
一方こちら魔道炉室
ホッキョクが頭を抱えていると
彼はよからぬものを見てしまった
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