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覚悟【Miracle Fanta詩 Ⅱ 331】

ウィードの意思号魔道炉室エンジン・ルーム

ホッキョクは

船内に侵入したニガマトと交戦していた


「チクショウ…!
テメェ、どこまでしつこいんだよ!
今度こそ焼き殺してやる!」

── 紅いツナギのホッキョク


ホッキョクはマッチに火をつけ
口に咥えたタバコに持っていった

ホッキョクはすぐさま
フィルターを吸い込むと
タバコに火がジリジリと移った

煙を燻らせると
タバコはバチバチ音を立て火花を散らした

ホッキョクは勢いよく灰色の煙を吐き出すと
纏うように煙を周りに集めた

たちまち煙は火炎に変わり
ホッキョクは纏った炎を巧みに操った

炎はまるで生きている大蛇のようだった


「オラァ!!!」

── ホッキョク


大蛇のように見えた火炎の生き物は
龍の顔に変化し
侵入してきたニガマトの一部に向かって喰らいついた

ホッキョクは経験上
ニガマトが炎に弱いことを熟知していた

悲鳴めいた奇妙な叫び声を上げながら
船内の壁の隙間から飛び出ていた
ニガマトの一部は一旦引っ込んだ


しかし
またすぐに出てきては焼かれるという
いたちごっこが続いた


その時
操縦室メイン・ルームから
ドブナガをおんぶしたアストンが駆けつけた


「ホッキョク、ここは僕に任せて!先に魔道炉を!
それと、ドブナガを頼む」

── ダイヤモンドの少年、アストン

「任せてったって、お前、魔法は使えねぇだろ!
こいつは火に弱いんだ、オイラの魔法の方が…」

── ホッキョク

「いいから」

── アストン


ホッキョクが喋り終わる前に
食い気味にアストンが言った


この時のアストンは
妙に落ち着き払っていて
ホッキョクは気味が悪かった


ホッキョクはアストンの言葉通り
ドブナガと一緒に魔道炉エンジンの修復にあたった


「あいつ、大丈夫なのかよ…、なんだか目がまともじゃなかったぜ…」

── ホッキョク

「きっと、ボクたちには思いつかない、解決方法があるのかもしれないね」

── 発明家、ドブナガ

「だと良いけどな…」

── ホッキョク


魔道炉エンジンはふたりの身長よりも遥かに巨大で
蟻の大きさに等しかった

ホッキョクはドブナガをおんぶしながら
魔道炉エンジン上部に上がるための階段を登った


ふと下を見てみると
アストンはニガマトに取り込まれていた


「おい!だから言わんこっちゃないんだ!
今焼いてやるから、ちょっと待ってろ!」

── ホッキョク

「大丈夫だ!このままで良い!!
作業を続けてくれ!」

── アストン

「おいおい…マジかよ…。し、死ぬんじゃねぇぞ…!」

── ホッキョク


ホッキョクは
アストンの理解不能な行動に困り果てたが
妙に緊張感のある声色に押され
ドブナガと一緒に作業にあたった



一方
こちら操縦室メイン・ルーム

ミナミは相変わらず項垂れていたが
アイウェオに諭されていた


「故郷に帰りたい気持ちはわかる。
でも、こやつを倒さない限り、そしてここを出ない限りは、帰るにも帰れないだろう。
私がまたみんなを背中に乗せて、空を飛べたら良かったのだが…。残念ながらご覧の通りだ。
ミナミ、状況というのは常に移り変わるんだ。
意固地になっていても、どうしようもない時だってあるんだよ」

── ドラゴンの仔、アイウェオ


ミナミは泣きながら
しかし先ほどよりも足に力を入れながら立ち上がった


「話を聞いてくれて、ありがとう。
みんなのところへ行こう。今は、舵を取る必要はないからね」

── アイウェオ


その時だった

操縦室メイン・ルームにもニガマトの脅威が襲ってきた


「雑草くん、またちょっとの間、力を貸して。
黒いのはもう嫌だけど」

── ヤスメヤセンの少女、ミナミ

「わかったよ。きみの願いなら、なんでも聞き受ける。
さぁ、この探検に祈ってごらん」

── 意思の短剣

「みんなを、守りたい…」

── ミナミ


ミナミが探検に願うと
彼女の身体は樹皮鎧に包まれ
船内にはどこからか出てきた樹木の盾が
ニガマトの脅威を退けていた

木と木の間から入り込もうとするものもあったが
その間すらも木々が埋め尽くした


「動きが止まっているうちに、魔道炉室へ向かおう」

── アイウェオ


ミナミは静かに頷くと
アイウェオとともに魔道炉室エンジン・ルームへ向かった



こちら魔道炉室エンジン・ルーム

アストンがニガマトに取り込まれているなか
ホッキョクとドブナガが魔道炉エンジン修復を進めるという
奇妙な構図が出来上がっていた

アストンをよく見ると
取り込まれているというよりかは
自分の身体に吸い集めている風に見えた


「魔導石が割れてやがる…、やっぱ限界だったか…」

── ホッキョク


魔道炉エンジンの要である魔導石は
魔法を倍増させるために重要だ

ホッキョクはここで覚悟を決め
背中のドブナガを比較的安全な場所へ下ろした


「え、どうすんの!」

── ドブナガ

「オイラが魔道炉のなかに入って、この船を動かす。
もうそれしか方法がねぇ…」

── ホッキョク

「そんなことしたら…キミが…」

── ドブナガ

「なんやかんやあったけど、ありがとな…。
お前みたいなやつ、嫌いだったけど、結構楽しかったぜ…」

── ホッキョク

「その必要はないわ」

── ミナミ


向こうから樹皮鎧に身を包んだミナミが走ってきた


「短剣の力で、この船を別の場所に飛ばす!それで全部解決する!」

── ミナミ


ミナミが短剣に祈ろうとしたその時


「ミナミ、それ貸して!早く!」

── アストン


アストンは待ち侘びていたように
ニガマトのなかから手を伸ばした


「アストン…?なの…?」

── ミナミ

「そう!僕だよ!
さっきは強く言いすぎた、ごめん!
でも、君のおかげで人の温かさを知ることができた!
色々悩んでたけど、もうどうでもいいや!
ただ…」

── アストン


ミナミは音速に次ぐ速度で
アストンの元へ駆け寄り援護に回ろうとしたが
彼は腕だけで顔は見えなかった


しかし確かに
ミナミが振りかざした短剣を握りしめた

その後わずかに
ニガマトの漆黒の物体のなかから
アストンの目だけが見えた


「ありがとう…ミナミ。好きだよ…、さよなら!」

── アストン


その目からはダイヤモンドの涙が一粒こぼれ落ちた

ミナミは落としてはいけない気がして
即座に拾い上げたが
気がつくと別の場所にいた


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