対談:NFTと日本の法規制|GVA法律事務所×TriasJapan
ブロックチェーン上で発行される代替可能性のないトークンであるNFT(Non-Fungible Token)。近年は、NFT化されたデジタルアートやトレーディングカードが数億円、数十億円という高額で取引され、大きな注目を集めています。一方で、NFTはこれまでにない新しい概念であることから、具体的な規制がなく、野放し状態にも見えてしまいます。詐欺的な事案も増えている現状も踏まえ、NFTに対する日本の法規制はどうあるべきなのでしょうか。
今回はTriasJapanの北野がGVA法律事務所を訪問。同事務所の熊谷直弥弁護士とNFTの未来について語り合いました。
NFTの法規制はゼロではない
北野:本日はよろしくお願いいたします。
熊谷:よろしくお願いいたします。
北野:NFTといえば、デジタルアーティストBeepleの「Everydays – The First 5000 Days」が約75億円で落札され、その人気に一気に火がついたように思います。その後、有象無象のNFTアート作品が取引されていますが、日本の法律ではこのようなNFT作品をどのように捉えているのでしょうか。
熊谷:デジタルアート作品はNFTの最もポピュラーな応用事例だと思いますが、単にアート作品を保有する権利をNFT化している場合、それがブロックチェーン上でやりとりできることを踏まえても、特別な業法対応は必要とならないケースが多いです。
そもそも、NFTは日本の法律で定義された用語ではありません。したがって、NFTを「NFTであること」のみを理由に直接的に規制する法律も今のところはないのが現状です。
北野:新しい概念ですので、法規制が追いついていないという側面もあると思います。
熊谷:はい。しかし、だからといって完全に法規制が無い状態であるかというと、全くそういうわけではありません。重要なことは、そのNFTがどういった性質のものであるか、ということを見極めることです。例えば、ビットコインやイーサなどの暗号資産の性質を持つと資金決済法で規制されることになるし、支払・送金手段のような機能が付与されると資金決済法上の前払式支払手段や銀行法上の為替取引などの規制に服することになります。また、NFTを保有していることでNFTに紐づく事業の収益が分配されるという形になると、このNFTは有価証券に当たることになるので、金融証券取引法の管轄下になります。個別具体的なNFTの用途によって、既存の法規制に引っかかる要素が出てくることになり、この点の見極めが非常に重要になってきます。
北野:なるほど。もし資金決済法や金商法で規制されることになれば、かなり厳しい規制がかかることになりますね。
熊谷:だからこそ、現在は特に業規制に抵触することのない範囲で組成されたデジタルアート作品やトレーディングカードのようなユースケースが盛り上がっているのでしょう。
ユースケースごとに適切な規制を
北野:NFT市場の現状を見ると、投機目的でNFTを購入する人も多く、これは金融商品に当たるのではないか、という意見もあります。
熊谷:単にアート作品として、保有している間にその価格が変わっていくだけだとすれば、購入の動機が投機であったとしても、特に業法上の問題にはならないと考えます。しかし、これに保有しているだけで利益を分配してもらえるような機能が付与されたりすると、それはもはや有価証券であり、金商法で規制されることになります。
北野:例えば、あるプラットフォームでは、NFTアート作品の転売利益の一部をIPホルダーに権利収入を還元する仕組みを導入していますが、これは問題ないのでしょうか。
熊谷:あくまでプラットフォーム内での仕組みであるので、こういったシステム自体が日本の法律に触れるわけではなく、また当該システムの利用者間での合意が無ければ当然に認められるものでもありません。これはフランスなど海外の著作権法で認められている「追及権」に類似した取組みです。追及権はアート作品が転売されていく過程でIPホルダーに対して対価の一部を還元する仕組みですが、日本の著作権法ではまだ認められていません。NFTの登場と合わせて今後、議論すべき課題のようにも思います。
北野:NFTの基盤技術であるブロックチェーンを活用してこれを実現できれば面白いし、業界にとっても有力なユースケースになると思います。ほかには、前Facebookが巨額な投資を決めたことで話題となっているバーチャル空間「メタバース」の中での資産を定義づけるものとして、NFTのコンセプトを活かせるのではないかということが議論されています。生活自体がバーチャル空間に移行し、その中の資産が全てNFTで表現されるようになると、もはや現行法でフォローできる範囲を超えているような気もします。
熊谷:バーチャル空間上でNFTが転々流通し、さまざまなものと交換できるようになったり、何らかのサービスを受ける際の対価の支払い手段として機能するのであれば、それは暗号資産に極めて似た性質を持つものと判断されるのではないかと考えます。2019年の金融庁のパブリックコメントで「NFTは暗号資産にあたらない」という趣旨のコメントがあったということがよく言われ、これをもって市場への参入障壁の低さが強調されることがあるのですが、同コメントはゲームアイテム等を念頭に置いたものとの限定がある他、個別具体的なユースケースの違いによって、金融庁の解釈が変わることは十分にあり得ます。例えば日本銀行券にも一枚一枚にシリアルナンバーがふってあり、厳密にいえばそれぞれが別物です。しかし、社会的にはお金には個性がなく、代替性があると信じられている。NFTの議論も、この延長線上で、1点1点の個性がありつつも、使用する人々がその個性に着目することなく、代替性のあるものとして取扱えば、暗号資産に該当すると判断されることがあるかもしれません。
北野:いずれにしても、ユースケースの蓄積が必要なように思います。
熊谷:そうですね。そういう意味では、NFTを一緒くたに規制する法律をつくるというよりも、NFTのユースケースごとにどの規制法が当てはまるのか、というガイドラインのようなものを策定していくことが、当面は重要かもしれません。一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)はまさに、「NFTビジネスに関するガイドライン」を策定していますが、今後事例が蓄積していくことで、さらに大きな地図が必要になるかもしれません。つまり、国主導のガイドラインのようなものがあっていい。その方が事業者も安心して業界に参入できると思います。
健全な発展に向けて
北野:このほかにNFTで問題なのは、例えば現実にあるアート作品の保有を証明するNFTはインターネット上で自由に売買できるのに、権利の移動にともなってモノも実際に移動するのかというと、必ずしもそうではないという点だと思います。ここにトラブルが発生する可能性は高い。
熊谷:ここの部分は、NFTの保有権の譲渡が現実のモノの譲渡に紐づくということを法的に手当するしかないでしょうね。他にもNFTのウォレットサービスを提供している会社がハッキングを受け、預けたはずのNFTが盗まれた場合にどうなるか、現状、個別の業規制に該当しないNFTを預かるサービス自体に規制はないため、ユーザーの補償が適切に行われるかなどの課題はあると思います。
北野:事件が起きてから規制するというのは、この国の暗号資産に対する当初からのスタンスのような気もしますが…。NFTはボーダーレスな性質をもっているので、日本で発行したNFTを海外で売り出すケースも考えられると思います。この場合、気をつけなければいけないことはなんでしょうか。
熊谷:日本で適法であったとしても、海外では適法でない場合もありますし、当然、その逆もまた然りです。国によって対応が異なるため、事前にリサーチをしておくことが必要だと思います。
北野:よくわかりました。Triasは現在、Triathonというブロックチェーンの検証システムの中にNFTの概念を組み込んでゲーム化し、コミュニティのインセンティブにつなげています。今後は、メタバース空間展開のためのインフラを提供することも予定していますが、いずれにしてもNFTの健全な発展のための環境が整っていくことを願っていますし、またその構築に尽力していきたいと思っています。本日はありがとうございました。
熊谷:ありがとうございました。
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