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The Long And Winding Road.

※この文章は「退廃的5分間」の関連作品です。購入の際はご注意くださいますようよろしくお願い申し上げます。


 

 一番初めの記憶は、赤々と夜の空に燃え上がる綺麗な炎のイメージだった。

音があったのかどうかはわからない。
ただ、親ではない誰かに抱かれて、慣れていないのか少し乱暴な手つきに痛みがあったのを覚えている。

あの、天まで登るような赤い轟々とした炎の柱を僕は今日まで忘れることができないでいた。おそらく平穏で、どこにでもあるような日常を幼いながら歩み始めていた僕はあの日から、孤独になったからだ。


しかし、それ以降の僕の人生というのは、
いわゆる不幸というか可哀想と言われて憐まれるようなものでなかったことは間違いない。とても良い施設に於いて、僕は過ごし、育つことができた。
小学生に上がる頃には自分の親は、あの火事で家ごと燃えてしまったんだということが理解できた。周りには、そんな子供ばかりだった。むしろ僕はそれでも幸せな方だったと言えるだろう。目の前で親を強盗に殺されたのをモロに見たというやつもいたし、心中して死んだ両親に抱かれて泣いていた記憶があるやつもいた。

でもみんな、それぞれに希望を持ってその過去に縛られることなく羽ばたこうとしているのがわかった。問題児というのは、いないのだ。

僕はこの施設が好きだった。

学校には遠く、施設自体に中学までの教育機関が付属している。
だから人の痛みに興味があって、でもどう接して良いかわからない年代の頃、全く境遇の違う他人と触れ合わずに育つことができたのも、よかったかもしれない。

この施設には、先生と言われる人がいない。
授業をするのに出勤してくる教師はいたけれど
基本的に下の面倒は上が見る、というシステムが構築されていた。
もちろん事務的なことや運営には多くの大人が関わっているだろうが
それが前面に出てくることはない。
むしろ僕はその大人の姿を見たことがなかった。
しかし、規律は守られていたし、反抗する相手がいない分、
いろんなことを友人たちと分かち合うことができた。

 中学を出ると、ほとんどの友人たちはこの施設を出る。
みんな本当は早く独り立ちして、普通の人と同じように暮らしたいのだ。
そこにある現実がいかに孤独で、過酷であろうとも
そんな境遇に甘んじていてはいけないという気持ちと、
強く大きく羽ばたきたいとうずうずとする気持ちがそうさせるのだろう。
働きながら夜間の高校へ行く。考えただけでも足がすくむような生活を、彼らは欲していた。スタートラインは普通の家庭に育った人と違うかもしれないがそのバイタリティは、尋常ではない。



 僕には、そんな勇気がないのだ。



高校に進学してもここの施設に残る人はいる。
特に女の子は全員が残る。僕ら男子には開示されていないが就職の斡旋まで行われているらしいという噂を聞いたことがある。それが嘘か本当かは知らないけど、彼女らはそれを知っているようだった。

僕は、小学生の頃から仲が良かった「美月」という女の子のことが好きだった。

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