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呼吸の温度。4

 不吉な言葉だった。
「あのさ・・・お兄ちゃん・・・。」
普段あまり口を聞かない明が、妙に神妙な面持ちで兄である祐希の部屋を訪れた。

「どうした?」

祐希は戸惑い半分、明から話しかけてくれたことへの嬉しさ半分で少しぎごちない返答をした。

「・・・・。。。」

明は、青い顔をして俯いたままじっと床を見つめている。
子供の頃家のガラスを割ってしまったことを打ち明けたとき、
学校で成績の悪いテストが返ってきてそれを親に見せるとき、
明はいつも俯いたままじっと床を見る癖があった。

「なんだよ、黙っててもわかんないぞ。ほら、入った入った。」

祐希はドアまで明を迎えに行って、部屋の中に招き入れた。
ポンと肩に回した手を伝って明の体が小刻みに震えているのがわかった。

「どうしたんだよ。万引きでもしたか?」

祐希が明の顔を覗き込むように、そう尋ねても返答はない。
「黙ってちゃわかんねえよ。」
明が萎縮してしまわないように、軽い声を装ってそう独り言を言ってベッドにゴロンと横たわった。

しばらくして、明がまるで会話の脈絡もなく
「あの・・・お兄ちゃん・・・俺に・・・もしものことがあったら、洋館には近づいちゃダメだよ・・・・。」
と言った。振り絞ったような声と切迫した雰囲気は祐希の体をベッドから起こす程度にはリアリティがあった。

「なん・・・・?」

そう尋ねようとしたときにはもう明は立ち上がって、自分の部屋へ返って行った。

「。。。・・・だよ・・・・・。。。?」


虚無感が部屋の中を支配していた。

「失恋でもしたかあ?」

祐希はその異様な空気をせめて茶化すように、そんな独り言を言った。

その翌日、

明は帰って来なかった。

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