罪と罰。
もしも。
僕があの曲がり角を曲がっていなければ。
もしも。
彼女が僕のことを見なければ。
世界はもっと違ったものになっただろう。
空の高い、冬の日のことだった。
僕は高校の帰り道を、家に向かって帰っていた。
家に帰るには近道だけど、あまり通りたくない道というのがある。
僕はその日、何故だか吸い寄せられるようにその道を選んで歩いていた。
今から思えばそう、まるで呼ばれていた、と形容するほかない。
ただの住宅地であり、危険なことは何もないのだ。
だけど僕はその道が好きではなかった。
大きな大きなゴルフ場の横を通って、その住宅街を抜ける。
何ということはない。
陰鬱とした雰囲気が好きではない、ということだけだ。
まるでその住宅街だけ色が薄いように感じる、というか。
住んでいる人の顔が見えない、というか。
何しろ特段意味があって嫌っているわけではない。
嫌な感じがする。というだけだ。
きっと、ここを生まれた土地として親しんでいる人もいるだろう。
小さな子供もいるだろうし。僕と同じ高校生も住んでいるだろう。
ただいま、おかえり、という暖かい挨拶の行き交う住宅地なのだろうと思う。だけど、好きになれないのは何故だろう。
僕はほんの気まぐれで、いつもは曲がらない角を曲がった。
その向こうの向こうの向こうにある商店街に早く抜けたいと願っていた。大きく外を曲がるには距離がある。僕はスッと足の向きを変えて、曲がったことのない角を曲がった。
まるでどこまでも続く建売住宅の呪いにかけられたように、延々と同じ顔立ちの家が並んでいた。もう僕にとってそれは色のない世界だ。
めまいと吐き気みたいなものを嫌悪感に混ぜて、僕は少し目を伏せぎみにその通りを足早に過ぎようとした。
誰かが家の二階の窓からこちらをじっと観察していそうな、
そういう不穏なざわめきが心の中にあることは隠せるようなものではなかった。
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