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悪魔憑きと春の夜。

 この世界には簡単に説明できないことが溢れている。
幼い頃から教わってきた常識や、普通というものが実は何処にも通用しない退屈なだけの事柄であるというのは案外知られてもいない。

若林優希には人に言えない悩み事があった。

ずっと昔から。自分の人生に影のように付き従ってともに大きくなってきた、その悩み事は今も発露を続けている。


優希には二つ年下の泰二という彼氏がいる。
付き合い始めて半年になる泰二の身に降りかかる災厄を、
しかし優希は一人称で語ることができない。
まるで、自分のしていることを俯瞰で眺めているような他人行儀を感じているからだ。それは無責任であり、無関心であり、何処かに憧れの影が潜む情事の如き憂鬱であった。

まるで風が徒党を組んで明日へ吹き荒ぶように流れていく春の夜のことだった。

「今日は、あんまりよくないかも。」

そういう優希の言葉を泰二は蔑ろにして
優希の一人暮らしの部屋に押しかけた。
優希はアイドルと女優の合間を揺れ動くような綺麗で可愛い顔をしていて、
泰二にとっては自慢の彼女だった。スタイルもいい。水着なんて着させて写真でも撮れば友人界隈にそれなりの高値で売り捌くことも出来た。

その優希の肉体を若さに任せて自分の好きにできる瞬間を、
泰二は一瞬たりとも無駄にはしたくなかったのだ。
だから、彼女の忠告を無視した。

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