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はじめてのさつじん2。

途方もない葛藤があった。

しどけない心でいた。

夏が過ぎ去った後の、どこまでも虚しいこの高い空に
秋風がヒュルリと吹けばまるで自分の気持ちまでも透き通って、
この暮れかかっていく空の切なさに何もかも消え去っていくような
そういう気分が唯一自分を許してくれているような気がした。

もし可能なのであれば、人生を一番最初まで巻き戻して
ちゃんと間違いのないようにやり直したいと思う。
だけれど、きっとまた同じように
自分の快楽だけを求めてこんな風に歪んでいくんだろう。

寂しげな秋の空は歩果を慰めた。

と、同時に彼女の歪みを浮き彫りにした。


滝内令斗はこの街に転校してきたばかりの小学3年生だ。
彼なりに忙しい日々を慣れない街で過ごしている。
クラスでの友人はいくらかできたが、まだ慣れない。
言葉のニュアンスも違えば、気候も違う。少し寒さを感じる。
夏の終わり頃に引っ越してきた令斗にとってこの街は、「寒い街」だ。
気候も温暖で人も暑苦しいくらいに暖かかった、前にいた街とは何もかもが違う。本当は帰り道は5年生、6年生と一緒に帰らないといけないが、その輪になじめずスッと離れて一人で通学路から離れた道を歩く。

他の子達も異分子がいない方が楽しいとばかりに鈍感に、そのことを気づかないでいる。それが気づかないフリであることくらい小学3年生であってもわかる。

令斗は小学生らしくない孤独感を慣れ親しんだ友人たちへの哀惜に混ぜて
ひとりぼっちの帰り道を進んだ。

慣れないながらも学校と家を結ぶ道をいくつか発見しておいて
それをたどる。少し探検するような色味もあって楽しい。
形ばかりの安全対策を講じてはいるがこの辺りは随分治安がいい。
夜になればなんの物音もしなくなるし。どこか寂しいくらいだ。

令斗は誰もいない公園の脇を通り抜ける。
目の端にローファーと紺のソックスを履いた脚がすれ違うのを見た気がしたが、どうせ自分には関係のないことだ。とトボトボ歩を進めた。

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