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A Day In The Life.

 「子供の時代なんて、あっという間だ」

という大人が多い中、僕はわりとゆっくりと少年期を過ごした。それなりに楽しく、有意義に、実に少年らしく育ってきたような気がする。泣いたりもしたし、笑ったりもした。不機嫌にもなったし、機嫌よくもあった。

劇的ではないにせよ、その瞬間瞬間を噛み締めていた。
逆に何かいうとすれば、もしかすると僕には早くそこにたどり着きたいと願う将来の夢、と呼べるものがなかったのかもしれない。

人並みに宇宙飛行士だとか野球選手だとかに憧れたフリをしてはみたけれど、さて本心は、と問われると実に定かではない。見渡す限り大人の世界で、僕が憧れることのできる存在というのはなかった。
だからこそ瞬間瞬間を噛み締めることができたのだろう。今の瞬間を早送りにして早く大人になりたいとは思ったことがなかったのだ。

そんな僕もこの春から高校生になった。
部活には入らなかった。やりたいと思えることがなかったからだ。
体を動かすことがそれほど好きというわけでもなければ、得意なものというのも、さしてない。

これはもしかすると将来道に迷う系の人生かもしれないぞ?
と、時折予告なく現れる不安の存在を認知しつつ、それでも僕は友人たちとワイワイやって実に高校生らしく過ごしている。

友達の家でやるゲームが好きで、友達とくだらない話をして笑うのが好きで、仲良しグループの居心地が好きで、勉強がそこそこで、同じグループにいる「明菜」という女の子のことが好きな、どこにでもいる高校生だ。

明菜とは、できればいつか付き合いたいと思っていた。

もしかすると、これが僕の人生で初めての「目標」とか、「願望」に位置する感覚なのかもしれなかった。


夏休みが始まる少し前。

僕の世界は急に動き始めた。

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