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真夏の風景。1

 秋元学は息を切らせていた。

青畳に自分の汗がボトボトと滴る。
この状況を冷静に見れる余裕はない。

切れた息を取り直す暇もないままに、冷酷に「はじめ」の声がかかる。
外ではワンワンとセミの合唱がハレーションを起こしていて、
まるでこの夏の途方もなく暑い1日が永遠に続く呪いをかけているように鳴り止まない。

「よしこい!!」

気合を入れたその声も、精神的な静寂に飲み込まれていく。
自分の中に確かにあったはずの、これまで築き上げてきたはずの自信や感覚、絶対的なロジックがそこにない。

自分の中にあるのはただ果てしない空虚である。

それはこの状況にあって、致命的だ。

秋元学は、一歩踏み出すその勇気がないまま
ただ漫然と力なく淀んでいた。


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