執着。
この帰り道は、怖い。
普段はそう思うことはないが、
このところ、そんな気がする日が多いように感じる。
もう高校生にもなって、そんなふうに思うなんて
どうかしてると思いながら、ついつい足速になる。
日が暮れるとこの辺りには人の気配というのがなくなる。
まだ昼過ぎか夕方ならばいい。民家だって近くある。
子供があてどもなく遊びまわる地域でもある。
決して、治安が悪いとかそういうわけではない。
この辺りには小学校もある。
だが、この通り。
たかだか100メートル程度の通り、ここだけは
なんらかの暗澹が立ち込めているような気がしてならない。
僕だけだろうか。
ここを通るたび、誰かに見られているような感じがするのは。
僕だけだろうか、ここを通るたびに例えば数十メートル向こうを走る車通りの多い幹線道路の音さえ聞こえなくなって、この世に僕が一人で佇んでいるような孤独さをはっきりと味わってしまうのは。
今日もそうだ。
ここを通るのは怖い。
もう高校生だぞ。恥ずかしくないのか。
別にここを通らなくても家には帰れるが、ここを通る方が少しだけ早い。
それに得体の知れない恐怖に挫けてその道を避けることの方が、なんだかいやだ。
手に嫌な汗が滲む。
今日は特に、嫌な感じがする。
たった100メートルだ。
ここを通り過ぎればあとは大きくて明るい通りを通って、家だ。
この道の向こうに大きな木がある。あの木はおそらく御神木というやつで、僕が小さい頃からずっとそこにある。車通りが割とある細い道なのに、舗装されないで祀られている。きっと、あの木の神様が僕を見守ってくれている。
僕は、一歩、その暗い通りに足を踏み入れた。
スッと周りから音が消えたような気がするし、
空には幕が張ったように、星の光さえ鈍くなったように感じられる。
少し背の高い建物の影になっているから、そう思うだけなんだろうが
それが僕に与える心理的な影響というのは、かなり大きいものだ。
深呼吸をする。
僕は、角を曲がってすぐにある
今はもう人の出入りのないそれほど大きくないビルの物陰に彼女が潜んでいることにも気づかないで、足を進めた。
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