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ご令嬢はおてんば。

僕が通う高校は、まあ自分で言うのもなんだけど、お金持ちの子が集う学校だ。僕もご他聞に漏れず、一応銀行の支店長を父に持つそこそこの金持ちの家の子供だ。

名前は渡辺隆という。たかしではなく、りゅう、と読む。

実は僕には最近春が来ている。

もちろん、季節の話ではない今が秋なのは分っている。

なんというか、青春の話だ。青い春が来ているのだ。

しかも相手は遥という、とある企業の社長令嬢だ。

学内でも一目も二目もおかれる才色兼備を地でいく彼女
僕の家柄からしても少し、いや、かなり不釣合いな相手ではあるが、まだ高校生のうちからそんな家柄のことを気にして交際していては堅苦しくていけない。
うん。
きっとそうだ。

僕はそうして自分を説き伏せて、遥とほとんどナチュラルに、なんら障害もなく極めてスムーズに付き合ってしまうことになった。

春というのはこうも麗しく、見る物すべてに色づくものなのか。

僕は高校生ながら、はじめて女の人とお付き合いする事になったこともあってこれまで目に留まらなかった草木の瑞々しさや空の青さに一々感謝する気持ちを持つようになった。なんというか、幸せだった。

僕と遥はほとんど普通の高校生カップルのように、放課後や休日、昼休みや登下校などを青春用に使って遊んだ。何気ない日常に遥がいるだけで毎日は輝いていた。

でも僕はまだこのとき、彼女と付き合うという事の本当の意味を知らなかったのだ。

季節は過ぎて、本当の春が訪れた頃。

僕は初めて遥の家に招かれた。

もちろん、彼女の父親は仕事で家にいない時間帯だったのでまだ気は楽だったがそれでも結構なプレッシャーを感じていた。

きちんとしないと、別れさせられるということも全然ありえる。


当日、僕はいつになく緊張して、彼女の家に彼女と共に帰っていた。

かなり遠くからでも見える、あのどうしようもなくデカイ洋館風の建物がそうだとしたら、これはもう早速首を括らないといけないんじゃないかと思った。

少し坂を上ったところにあるその洋館風は、果たして彼女の家であった。

恐ろしく高く、とんでもなく豪華な門の向うには、玄関に続くアプローチが長く伸びている。その横には見たこともないほど長い高級車や、一般家庭ではお目にかかれるはずもないタイプの車がずらりと並んでいる。
ドイツを隔てているのか?といいたくなるほど高い塀に囲まれた屋敷はいかにも豪奢で、荘厳だ。もちろん庭園に池はあるわ謎の石像はあるわ金持ちのスタンダードアイテムの見本市のような風景だ。

僕はいつも静かで、それでいて案外普通な遥を好きでいた。

普通の女子高生と同じようで、やはりどこか感性が違う。そういうところも好きだった。

僕は遥に連れられて彼女の家に入った。

素晴らしい作りのシャンデリアがあったり、エントランスホールでシャム猫が出迎えてくれたりということはなかったが、それでも充分豪華でどこか生活感のない家だった。
当たり前のようにお仕えの方がいて、思いのほか気さくなお母さんと三人でこれまで食べたこともないようなケーキとか、紅茶とかそういう上品なものを頂いた。

一通り、お付き合いさせていただいているようなことや普段何をして遊んでいるかとかを聞かれた後お母さんは「まあじゃあ、あとはお若い2人に任せちゃおうかしらオホホ」とかいって近所のジムへヨガをしにいってしまった。

「あの、、りゅうさん、少し運動しませんか??」

ちなみに、遥は誰にでもおずおずとした敬語で話すのだ。これがまたかわいい。

僕は、遥が運動するイメージはないが、バドミントンやキャッチボール程度なら問題なくやれるだろう。
いくら家の敷地が広いからといって100メートル走を庭で何本も走らされることはあるまい。とタカを括っていた。



だが、これがアブナイ悪夢の始まりだった。


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