究極生命体少女・アイ。
1
キイイ・・・・。
「出ろ。」
無愛想な声がそう呟く。
「ふん、なんの真似だ。」
牢屋の中で座ったまま、男がそれを睨み付ける。
逆光線で見えにくいが看守の顔は笑ってもいなければ冷やかしてもいない。
死刑囚・奥田にはそれが居心地悪くて嫌だった。
「いいから。釈放だ。」
「し・・・釈放って・・・・。」
ここへきてようやく奥田はその異変を察知して、動揺した。
もう何年もここで死刑囚として
死ぬために生きてきた奥田にとってそれは
まるでハシゴを外されるような奇妙な感覚だった。
鳩尾に冷たいものがつるりと流れ落ちるような。
そんな感覚だ。
外に出ると、一台の車が奥田を待っていた。
黒塗りの外車。
煌々としたヘッドライトが道を向こうまで照らしていて、
塀の中、牢屋の中だけが自分の世界だった奥田には
この自由な世界を見渡すことさえ慣れないことだ。
一歩一歩、土の上を歩く。
まるで新しい命を授かったような、
そんな気分だった。
奥田は振り返って、看守の顔を見る。
「本当に、いいのか。」
「ああ。国がそう言ったんだ。俺たちも異存はない。」
ほら、と渡された荷物はここへきた時に来ていた服と、
その間働いて得られた、ほんの少しの現金。
奥田にはそれ以上いう言葉が見つからず、
やおら頭を下げて、自分の目から涙がこぼれそうになるのを悟られないようにした。
「新しい居住が決まるまで、国の指定の施設においてもらえるそうだ。迎えがベンツなんて、なんか俺たちよりVIPだな。」
看守はそう言って、親しげに、もしくは寂しげに笑った。
奥田は下げた頭を元に戻すと、
もう一度会釈をして、踵を返した。
運転手が恭しく「お待ちしておりました。」と言った。
普段からしっかりと人とコミニュケーションを図っている人間の声は洗練されている。私語など何年も許されなかった奥田には、その艶やかな響きさえ新鮮で「あ・すみません・。」と、慣れない自発的な言葉についた辿々しいアクセントに苛ついた。
車に乗り込むと、滑らかに進み出した車は知らない道を走る。
運転手は無駄なことを一言も喋らないで、夜の道をひたすら走らせていく。窓の外の景色は残念ながら視認できる光などもなくただ延々と森の中をいく。窓にへばりついて見上げると、少し欠けた月がゆっくりと浮かんでいて、その周りをかすかに星たちが取り巻いている景色が見えた。
塀の中ではない、無限の大地から眺める空は羨望の対象ではなく、ただ手を伸ばした先にある自由の象徴だ。
奥田は目から涙が溢れるのを、今度こそ止められなかった。
気がつけば、奥田が乗っている後部座席と運転席の間にアクリルの障壁が現れていて、奥田がこれはなんだろうと思いながら訝しく眺めていると、後方でブシュッ・・・・という音がした。
奥田は脳を奥へ引っ張り込まれるような不思議な感覚を覚えて、次の瞬間には目を閉じていた。
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