呼吸の温度。5
颯太は真っ暗闇の中で目を覚ました。
「んあ・・・?」
あまりにも爽快な気分で、もしくは断絶された気分で目を開けるとそこは、しかし自分の知らない場所であることは明白だった。
寝心地のいいベッド。体にかけられた羽毛布団の心地よさはいつまでもここでこうしていたいと思わせてくれた。
しかしどれだけ頭を回らせてみても、自分がなぜここにいるのかを思い出すことができない。
その違和感はベッドの心地よさを帳消しにしてあまりあるものだ。記憶がないということの自然な不快感は颯太にとって対応しきれないものだ。
ムクっとベッドから身を起こしてみる。
少し頭が痛い。直前のことを色々と思い出してみると、そうだ。と行き当たる。
週末に高校のクラスメイトの友人たちと釣りをしにくるのに場所の下見に来たんだった。大きな池があって・・・・。
と、その景色を思い浮かべてみても何かの瞬間にその景色は、まるでテレビの電源を切ったようにブツン・・・・と途切れる。
途切れて、今に至る。
「何があったんだよ・・・。」
ピリリと変に痛む頭を持ち上げるようにして、ベッドから立ち上がる。カーテンの閉まった大きめの窓に近寄って外を眺めてみる。
鬱蒼とした森が夜の底に沈んでいて、月が高い。雲に隠れて目を伏せているように見える。おそらく時間は深い。
颯太は月の明かりに照らされた部屋を振り返って眺めた。おそらく高級であろう調度品が並ぶ客室のようなその部屋は、とても豪奢で手入れの行き届いた空間だった。
ゴトンゴトン・・・!!
と、どこからか何かの暴れるような音が聞こえた。
颯太は、おそらく貧血かなんかで池の辺りで倒れた自分をこの屋敷のご主人が解放して助けてくれたのだろう。
と解釈した。それならお礼を言わなければならないし、ゆっくり休ませてもらって、もう大丈夫なので、と退去しなければならないだろう。
寝心地のいいベッドと、自分の生活からはまるで手の届かないような贅沢な部屋を名残惜しく思いつつ、
颯太はドアに手をかけた。
重たく、それでいて滑らかな駆動の扉は音もなく開いた。
しかしそこは、明るい世界ではなかった。
高い吹き抜けの天井から下がっているシャンデリアは沈黙していて、窓の外に見た夜がそこにわだかまっているいるかのようだった。
大きなホールのある玄関が見渡せる二階の一室。中央から登って左右に分かれていく、本当に絵に描いたようなアニメに出てくるような洋館だった。
灯はなく、人の気配もない。自分からこんなところに入ってきた記憶もないから、運び込まれたのだろう。
時間はどのくらいだろうか。颯太は得られるもののない情報の中からしかしそれでも必死に現状を把握しようと試みていた。
そしてまた、
ゴトンゴトンっっ!!!!!
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