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そんなのひどいよ。

 僕は奴隷だ。

はっきりとそう認識してしまったのは、先週のことだ。
はっきり言って僕は、しょぼい。
背も小さいし、細い。
なんと言えばいいのか、それほど頭も良くないし。
んー。
いわゆるコンプレックスの塊のような人間だという自覚がある。

だから多少虐められたとしても、それは仕方がないのかなと思っていた。
ことの初めは放課後、そのまま帰るのもなんだからという変な考えが起こって部活をしている生徒たちをぼんやり遠巻きに眺めている時のことだ。

うっすらぼんやりバスケ部を眺めていた。
運動神経のいい、背の高い、顔のいい男子たちが
もう明らかに他の目を意識しすぎている様子でボールを追いかけ、
そして一目散にゴールポストへそれを投げる。
躍動する運動能力の塊のような人たちの坩堝。
換気と通気のために開け放たれている運動場へつながる扉に鈴なりになって集まっている女子たちがキャアキャアと歓声を上げる。

いやあ、そりゃいいよ。青春ど真ん中。
ああ、僕もこんなふうだったらなあ。
そんなのを横目に、ふと見ると今度はバレーボール部だ。
こちらもバスケ部に負けず劣らずの背の高さと運動能力の高さを、
それなりに広いコートの中で遺憾無く発揮している。
僕の運動できない、背も小さいというコンプレックスをこれほどまでに直接いじくり回してくるという場所はない。

あと1秒ここに存在すれば自分の惨めさが理由で爆発して死んでしまいそうだから、もうよほど手の届かない場所へ行こうと思ってその隣に隔てられつつ地続きになっている武道場に移った。
一階は剣道場だ。
きえええええ!!!!
と奇声をあげてドタンバタンと足を踏み鳴らし、竹刀を振り回す鉄仮面の集団はもうそこまで行くと僕のコンプレックスに触れもしないほど異世界である。びしい!ばしい!という、在りし日の剣豪に思えを馳せるような癒し系の環境音に身を委ね、なんとなくうっとりとそれをみていると、まあ、自分の人格さえ個性なのかなと思えてくる。
竹刀のぶつかり合う音色と、奇声と、風の音。普段僕が生きている世界とは完全に隔絶された景色と熱量だ。

やはり非日常とは重要なものだし、高校生の一喜一憂など、その程度でぶれるものだ。

僕はさっきのバスケ部とバレー部のイケてるメンズにやられた気持ちを持ち直しつつ、外の階段をえっほえっほと登って二階の柔道場を覗こうと思った。

しかしそこにはバトントワリング部というのが幅を利かせていた。
そうだ。
と思い直した時には遅かった。

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