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呪風。

 大変なことになった。

男は部屋の中をうろうろとして、落ち着かない様子でただそれだけを頭の中で呟いた。

 まさか、まさかこんなことになるとは思わなかった。

後悔にも似た思考が、途方もなく渦を巻いて
男をさらに深みへ引き摺り込む。
悶々と考えがまとまらないまま、時間だけが過ぎていく。

 これは、非常にまずい。そんなことはわかっている。
 わかっているが。いや・・・・何か、見落としていることはないか。
 何かないか。何か、手はないか。

男は脂汗をじっとりと、重厚なスーツの中にかいて
夜の闇に反射して鏡のようになっている大きな窓に映った自分の顔が
切羽詰まったように蒼白になっているのを見て、
さらに追い込まれたような気分になる。
赤い毛足の長い絨毯の上を、音もなく歩き回る。
シャンデリアの煌びやかな光が、今はどうしようもなくやかましかった。
偉そうにふんぞりかえって座って、ご機嫌伺いをしてくる企業の社長たちに侮蔑の笑みを浮かべて見せるその椅子に、座る気にどうしてもなれない。

 ああ、もう時間がない。

男はいよいよ焦ったような気分で、眼球を忙しなく動かしながら自分の思考が自分の思いもよらない答えを導き出してくるのを必死になって、待っていた。が、音沙汰はない。ただ焦燥だけが募っていく。嫌な汗だけが溢れ出していく。

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