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好奇心の代償。

 僕がまだ中学生の頃、親の都合で半年ほど大阪に住んだことがある。
普段暮らしている関東のどこかよそよそしい空気に慣れていた僕は、大阪の独特の空気というものに馴染めずにいた。良くも悪くもお節介で、普通にしているだけなのになんだかんだと言って世話をしてくれようとする。
僕は放っておいて欲しいだけのに。
それは学校でも同じことだった。級友たちは皆おしゃべりで、洗練されていない。同じ日本なのに、どこか別の国に来たみたいな感覚になったことを、今でもよく覚えている。

あれは確か、僕が引っ越して2ヶ月ほどがたったある日。
敬遠していた級友ともそれなりに打ち解けて、なんだ大阪も悪くないなと思い始めた頃だったか。
友人になった赤石達也という奴が教えてくれたことがある。
僕の家から少し行った川ぞいに、いくつかの工場や倉庫街があって、
その中の一つに赤鬼と青鬼が住んでいる。というものだった。
なんだよそれ、ホームレス?と僕が聞くと赤石は
「まあ見たらわかるわ。めっちゃべっぴんやけどあれは鬼やな。」
と言ってのけた。別嬪、というからには女の人がいるんだろうけど、それが鬼とはどういう意味なのか。大阪の人間はいちいち言うことが大げさでまともに取り合っていたら時間がいくらあっても足りない。
この時僕は、この話もまた同じように大げさに誇張された類の話だろうと話半分で聞いていた。

「見に行くんやったら見つからんようにせなあかんで。見つかったら食われてしまうで。」

少し意地悪いような笑みを浮かべてそう言った赤石と別れて僕は自分の家に向かった。トボトボというつもりも無いが、なんとなく一人で歩いているのが寂しく感じられる日だった。
「赤鬼と青鬼、、か。どういう意味だろうな。」なんとなく引っかかって流れていかない言葉だったとついボソッとひとりごとを言って気が付いた。
なんとなく立ち止まった場所はその倉庫街と、自分の家を隔てる別れ道だった。

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