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GAME。

クラス替えがあった今年、夏休みを終えて
秋が来る頃には秀一と達也は仲のいい友達になっていた。

小学五年生、毎日が楽しく
輝かしい日々の中を生きる頃だった。

達也は秀一の家にはよく遊びにもきた。
平均的な家である秀一の家には、
やはり平均的なゲーム機や、遊び道具があった。

家の近くには公園もあって
二人でボールを持って出かけたりもした。
休みの日には、自転車に乗って少し遠くへ、
とはいっても彼らにとっては、だが
出かけることもあった。

秀一にとって達也はいつしか
親友といってもおかしくない存在になっていた。
そろそろ季節は冬へ差しかかろうとしていた。

だが秀一は達也に関していくつか不思議に思っていることがあった。

まず家に遊びに行かせてくれない。
これに関しては、達也の家は
共働きで家に親がいないため
友達を呼ぶのは避けるようにと言われてる
という説明を受けたことがある。

そしてもう一つは
もしかすると達也は、いわゆる
「ギャクタイ」を受けているのではないか。
ということ。

初めて秀一がそう思ったのは、
達也がある日首に痣を作って学校に来た時だった。

「あれ?達也、首どうしたの?」

と、秀一が聞いても、
達也は「ちょっとぶつけたんだ。」
と答えたきり口を閉ざした。

殴られたような青あざではなく、
鋭いもので傷つけられたような、
痣。

秀一は小学生ながら、「ふーん」と空気を読んで
それ以上追求することはしなかった。
きっと本当にぶつけたのかもしれないし。と。

またしばらくすると、今度は腕を痛そうにしている。
「どうしたの?」と尋ねると、
寝違えた。と答えが返ってくる。
少し動かすとツッ。。。。といって顔をしかめる。
秀一は少しだけ、疑念を深めた。

思い切り顔を殴られたと一目でわかるような
そんな傷をつけられて学校に来ることはなかったが、
それでも何かしらの「外傷」を受けて
学校に来た日は達也は少し大人しく、
どこか落ち込んでいるような雰囲気があった。

服を着ていてよく見えないが、
きっと達也のお腹や背中にも何らかの傷があるんだろうな、
秀一はそんな風に思っていた。

しかし秀一にとって達也が親友であることに違いはない。

ある日、何となく遊んでいる流れで
自転車に乗って達也の家の前まで送っていくことになった。
秀一はその家の大きさに驚いた。

白い外壁に、広い庭。
庭にはブランコみたいなものまでしつらえられている。
冬のすかんと抜けた青くて高い空と相まって、
その大きな綺麗な家はまるで
外国のドラマに出てくるような風格すらあった。

「すげえええ!!!おっきいお家だなあ!!」

秀一があまりにもガキっぽく驚くものだから、
達也は少し笑った。

「あはは、でも中は普通だよ。」

「へえええ!!すごいなあ!!見てみたい!!」

「見るまでもないよ。」
やはり達也は秀一を家に入れることには抵抗があるらしかった。

その日から秀一は事あるごとに達也を家の前まで送った。

二人で自転車を漕ぎながら
秀一は達也に、どれほど達也の大きな白い家に憧れているかを
こんこんと語って聞かせたが、達也はニコニコと微笑んで
まあ、またそのうちね。とかわすばかりだった。

そんなことを繰り返していると、
ある時達也の家の前に誰かの影があるのを見つけた。

それが制服を着た女子高生であり、
おそらく達也の姉であることを秀一は理解した。

「こんにちはー!」

達也がなぜか顔色を悪くするのにも気づかず、
秀一は達也の姉と思しき女子高生に朗らかに挨拶をした。

彼女は秀一がこれまでにみたことのない美人だった。
髪の毛はさらりと長く、
整った顔立ちに瞳の色が薄く、ブラウンがかっていて、
あまり達也とは似ていない。
すらりと細身のその体は華奢で
それでいながらスカートから伸びる膝から下は
少し健康的な筋肉を帯びているようだった。

透き通るような白い肌は家の豪奢な感じとよく似合っていた。
それこそテレビに出てくるお家と住人を
そのまま引っ張り出してきたような非現実感すらあった。

強烈に美人な達也の姉は
その高貴なルックスから、少しとっつきにくい感じもしたが
意外と穏やかで、明るい雰囲気で秀一に
「こんにちは。」と返してくれた。

秀一は一瞬心臓が止まったのを感じた。

「達也のお友達?」
彼女は表情を柔らかくして、秀一に話しかけた。
秀一はただそれだけのことで顔がポッと赤くなるのが自分でもわかった。

初恋だった。

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