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旋風。1

 伊藤智之は忍者だった。

忍者、といっても鎖帷子に頭巾をかぶって手裏剣を投げ、煙幕で姿を眩ませるような昔ながらの忍者ではない。
もちろん、伊藤智之の祖父、曽祖父などまではそのような形も残っていたらしいが、今のR&Bが昔のそれと全く違うものになってしまっているように時代に即して姿を変える。それもまた実に忍者らしい振る舞いではあった。

しかし現在の忍者の役割というのは昔のものとそれほど変わりはしない。
いわゆる国営のスパイのようなものだった。

政治家たちが日本という国の舵を取る役として表舞台に出る役者だとすれば、その影で舞台を動かし、彼らがその役を演じやすいようにするのが忍者だと言えた。


伊藤智之は自分を含めて5人の精鋭で秘密裏に掘られた地下通路を歩いていた。32歳の伊藤を筆頭とする5人は伊藤以外のすべてが20代と若いが忍びの筋では名の通る男ばかりだった。

ひんやりと冷たいそのトンネルは、蛍光灯のいやに青白い光を反射して無機質に延々とどこまでも闇の中をつづいていく。
伊藤智之は今夜、この通路を使って大事な商材を届ける。
商材というのは、つまり子供だった。この国は、他国に新鮮な子供を売り渡して侵略から免れている島国だ。少子高齢化が聞いて呆れるが、そうして少しでも国力を弱めて、何とか生きながらえていくという方法を国のトップはとったのだ。

スーツ姿の忍者たちは、コツコツと革靴を鳴らしてトンネルの中をくまなく見渡す。誰も侵入する余地のない密室ですら、警戒の対象だった。

「異常は?」

「ありません。」

ネズミの尻尾が風の中を揺れる音ですら見逃せない。

伊藤智之を長とするこの5人の若き精鋭たちは、この任務を邪魔する組織のことをよく理解していた。

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