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強制矯正プログラム。〜Aの場合〜

 どうしようもない。

そんな言葉が男には当てはまっていた。
「A」年齢は24歳前科7犯。

その全てが婦女暴行という有様だった。

Aはいつの瞬間も途方もなく反省していて、
自分という人間は生きていてはいけない、とさえ思っていた。
だが目の前に好みの女がいると見境がなくなり、どうすれば犯すことができるのか、ということだけを考えるようになってしまう。

始まりは17歳の秋だった。

一度手を染めると、その快感とスリルはAを虜にした。

親が泣き、怒り、狂っていくのも自分のせいだとはっきり認識していたし反省もしていた。しかしやめられなかった。なぜかは分からない、おそらく病気なのだろうと諦めて自分を納得させようとしたけど、だけどそうやって納得したところで話は解決にならない。ありとあらゆるカウンセリングを受け、治療プログラムにも参加した。

だが、その暴力性と性的な自己中心的思考は一度鎌首をもたげると一切歯止めが効かなくなってしまうのだった。

手の打ちようがない。

もう、どうしようもないな。
と、Aは途方に暮れていた。

そんなある日、国は突然性暴力者を対象とした強制矯正プログラムというものを設置した。

Aの元にも当然知らせは届く。
どうせ、これもお国の自己満足なんだろう。
とAは思った。

これまでと同じく、医者と施設を用意してそこに自分を閉じ込めて薬を使い、ビデオを見せて教育し何か要領を得ないテストをして自分のことを値踏みするばかりのプログラムだろう。

Aは諦め半分で、しかしどこかで藁をも縋る思いでそのプログラムに応募した。しばらくすると自宅にいるAの元に封書が届いた。

中を見ると日付が書いてあり、その日にとある施設に来るようにと書かれてある。不思議なことにAに対するせめてもの敬意というものがその文章の中には含まれていなかった。どこか命令するような文面であり、それがAには違和感だった。何かが違うのかもしれない。

Aはなるだけ人に合わないようにしてその日を待った。
いつ自分の中にいる変質者が暴走するかもしれないのだ。
恐怖というにはおこがましいのかもしれないが、Aにとってそれはまさしく恐怖そのものだった。アンコントロールな人格が、自分の中を突き破って出てくる。その瞬間の感覚はどうしようもなく無防備だ。


Aは親に付き添われて指定された施設にやってきた。
フードを深くかぶって、他の人間が目に入らないようにする。
そのフードは欠かすことのできない、Aにとっての檻のようなものだった。

天気がいいのか曇りなのかも分からない。
せめて雨が降っていないことくらいはわかる。
自分が歩く1メートル先はわかるけれど、真っ直ぐ前を向いてはいない。
ありとあらゆる制限が、自分にとってふさわしいとAは思っていた。
こんな野獣を放って置いてはいけない。

窮屈で、鬱屈とした思いが体の中にいるあの人格を育てているとすら思ったけれどAにはそうすることしかできなかった。

受付を済ませると、かなり早い段階で「では、お付き添いの方はここまででお帰りください。またおってご連絡いたしますので。」と丁寧に両親は追い払われてしまった。「どうぞよろしくお願いします・・・。」と悲痛な声が聞こえる。Aは涙があふれそうになるほどに情けなかった。自分という生き物が存在することが、そしてそれを自分で断ち切ることのできない弱さが情けなかった。

Aは連れられるがまま、無機質な廊下を歩いた。
リノリウムの真新しい床面がこの施設の新しさを思わせた。
どこか病院みたいな匂いもする。
フードの中から少し当たりを見渡す。

コンクリートの壁に強烈に重たそうな鉄の扉がいくつも並んでいる。
その扉には番号が振られていた。
なんだこれ、こんな施設初めてだなあ。
と、Aは思ったがそれ以上の感想はなかった。

「では、この中でお待ちください。」

男の慇懃無礼な声がAを13番の部屋に通した。
まだ新しく建て付けもいいのか、重たそうな鉄の緑の扉は音もなく開きその中の広い空間へAを誘った。

部屋の中に足を踏み入れると、その床が普通のものではないことがわかった。少しクッション性があって沈む。壁には注意書きがした紙が貼り付けられていた。

『この施設における強制矯正プログラムは途中退出ができません。係員が許可するまで決して外には出られませんのでご了承ください。何が起こっても当施設は一切の責任を負いませんので、そちらもご了承ください。では、靴を脱ぎ、下着姿になってお待ちください。』

簡素な文章の中に違和感がいくつも散見される。

しかし、Aは素直に靴を脱いで下着一枚になってその部屋の中で待っていた。Aの運動もろくにしていない痩せ細った体が露出される。フードを取ると思いの外天井が低いことがわかった。それにこの部屋には窓がない。無機質に明るい蛍光灯の光が煌々とコンクリートの壁と白い床を映している。他には、何もない。

程なくして、重たそうな鉄の扉が開いた。
開いた扉から、向かいの部屋にも誰かが入っていったのが確認できた。
そして自分の部屋に入ってきたそれは女だった。

Aは愕然とした。

それは全く自分好みの、完璧に自分好みの若い女だった。

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