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呼吸の温度。2

誠は自転車に乗って、1人薄暗い森の中へと続く県道を直走っていた。
あたりはそろそろ日も暮れようかという頃合いで、茜色の空がいかにも物悲しく冷たい風を誘っていた。
ブン・・・ブゥン・・・・とスピードを出して走り去る車の排気ガスの匂いを物ともせずに誠は好奇心に胸を躍らせていた。

暗く、ポッカリと口を開いた森への入り口が見えるとそのワクワクは更に加速度をつけていく。
誠を乗せたマウンテンバイクはビュンッと、風のようにその入り口へ吸い込まれていった。まるで、誘われるように木々たちも、夕暮れ時の冷たくて寂しい風にザワザワと揺れた。

「なあ、誠、知ってるか?」
二日前の教室で、誠は友人の明にこんなことを聞かされた。
「あの、コンビニの横のさ、マンションのさ、もうちょっと向こう行ったところに森あるじゃん。」

「う、うん。」

「あの森の中に、大きな大きなお屋敷があってな、1年くらい前にそこで人が死んでたらしいんだよ。昨日、お母さんが言ってた。」

「ええ?あんなとこに家があるの?」

「うん、いやいや、大きな家とかじゃなくって、そこで人が死んでたんだっての!」

「ええ、ああ・・・!!」

誠は教室でもオカルトマニアで有名だった。
中学2年にもなって、学校の七不思議を確かめるという名目で夜の学校に忍び込んでみたり、
街ゆく女の人がマスクをしていたら、口裂け女ですか?と話しかけてみたり、誠のオカルトへの関心は度を超していた。

「だから、もしそれが本当なら、誠も調査するべきなんじゃないかなあってな。」

明はそういうだけいって、「じゃあ、俺部活あるから!」と柔道着の入ったカバンを仰々しく背負って教室から出て行った。

「なるほど・・・それは、、、調査するべきですね。」

誰もいない教室で、ピッと人差し指を立てて誠は自分の心が色めき立つのをはっきりと感じていた。

「はぁっ!はぁっ!!!

本当にあんのかよ、そんなお屋敷・・・・」

森の中の登り坂は、変速ギアのついたマウンテンバイクでも少々厳しい。
体育以外で運動をしない誠は息を切らしながら冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んでいた。

「もうっ・・・風邪ひいちゃうよ・・・っっ!!!」

白い息を吐き出しながらそう文句を言っているうちに、空は茜色をグラデーションさせて濃紺の星空へとその表情を変えていた。

しばらく走ると、森の果てと思しき広い空間に出くわして、そこが何かの敷地になっているらしいことを誠は理解することができた。
「うわっ・・・・でた・・・・。」
ギッ・・・とマウンテンバイクを止めて、よく見上げるとそれはそれは大きな洋館だった。
そのシルエットは夜の闇の溶けて全貌を眺めることはできないが、それでも誠には自分の家より大きいことがはっきりとわかった。

その洋館にはあかりがついていないため、誠はその敷地に沿ってグルンとその周りを探索してみることにした。
「うわあ・・でっかいなあ・・・・。こんなの、知らなかったなあ・・・・。」
1年前に人が死んでいるのが見つかった、ということは、まあ誰も住んでいないんだろうな。
ということは誠にも察しがついた。ぐるっとその周りを回ってみると自分がたどり着いたのは裏口であるらしいことが判明した。
正面には強烈に立派な門構えとこの屋敷につながるグネグネとした車道があった。

「帰りは、ここをシャーっといこう。。。どこへ出るんだろ・・・。。」

ひと気のない屋敷の妙な威圧感に心細くなった誠はそんなことを独言て、もう一度屋敷を振り返った。
すると、さっきまでひと気もなく、あかりもついていなかったはずなのに、煌々と温かな暖色の灯りが門にも、そして屋敷の中にも点っていた。

「うえ?さっき、電気ついてたっけ・・・・?」

スウッ・・・と、音もなく門の向こうの屋敷の扉が開いた。
そして「どちら様でしょう?」と、若い、女の人の声が響いた。
薄暗闇の中の照明に照らされたその姿は誠のこれまでの人生で一度も見たことのない美しい女の人だった。

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