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暗躍。

 湿った風の吹く、夏だった。
蝉の声がまばらで去年までのような、
青く向こうまで澄んだ空ではなく
どんよりと晴れた、濃度の高い青がうずくまる
そんな夏の空だった。

この集落には、あまり人がいない。

学校も小中学校と高校がそれぞれ一つずつあるだけだ。
それも生徒がたくさんいるわけではない。

秋本蓮は今年高校三年生になった。
大学生になるとすればここを離れなくてはならないし、
そうでないとしても働き口は役場か、隣の街に出るか。
いずれにせよこの場所にとどまっているというのは、
かなり将来というものを狭めてしまうことになる。

なんとなく、この国において
自分が住んでいるこの地域は
あってもなくても、
まあ、本音を言うとない方がいいくらいの場所なんだろう。
ということを、この集落に住んでいる人間はみんな認識している。

どんよりと空に横たわるヌメヌメとした青の、その暗さは夏という季節を忘れさせるほど陰鬱なものだった。

「おい、清さん死んだらしいぞ。」

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