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一瞬先の午後。

 「えー、一時間後、地球が消滅するようです。」

明坂雄吾のクラス担任がそう言ったのが、30分前のことだった。
ドヨドヨとよどむ教室の空気。え?何?面白いこと言った?様々なひそひそ声がもうすでにヒソヒソともせずに明坂の耳にもたどり着いていた。

「残念ながら、これは冗談でもなんでもありません。特別に許可っていうか、もういいから携帯電話を出して調べてよろしい。」

普段真面目一徹な担任がもういいから、などという言葉を使うと流石に空気が変わる。

「え?」「うそ・・・」「ひっ・・・。」

携帯の画面にはいっぱいに、緊急避難命令が表示されている。
「軌道を外れた彗星がまっすぐ太平洋に向かっている」
「おそらく地球の軌道が変わる程度の衝撃が予想され、日本は最も甚大な被害を受けることになる。できる限り高台に、できる限り迅速に避難してください。」

およそ、そのような内容だった。

「そんなわけだから、今更どこへ逃げても同じかもしれないがそれでも・・・一縷の望みを託してみんなお家に帰りなさい。そして、最後の時間を家族と一緒に過ごしてください。」

血の気のない担任の言葉に、言葉の意味より大きな絶望が含まれているのを聞き届けるより先にカバンも持たずクラスメイトは教室から走り出して行った。


「君らも、早く帰んなさい。」

担任が節目がちにそう言いながら教室から出ていく。
ほとんどパニック、恐慌状態にあった学校は、しかしほとんど呆気なく静けさを取り戻した。

「ねえ、帰んなくていいの?」

もう教室には一人だろうと思っていた
明坂に声をかけたのは野々村、という女子生徒だった。
野々村凛はクラスでも勉強ができるタイプの女子だ。
派手ではないが、しかし男子生徒のあるエリアからはめっぽう人気がある。
どこか影があって、メインストリームではないにしろ、その美貌は一目置かれてしかるべきだろう。

「あ・・・・ああ。」

明坂はそう言ってようやく野々村凛の姿を認識した。
彼女は普段ならしないような仕草、教室の机に腰をかけながら窓の外を逃げ惑うように帰っていく生徒や教師たちを見下ろしていた。


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