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ぶっちゃけ"原っぱライブ"ってどうなのか(ミリアニネタバレ感想)

はじめに

アイドルマスターミリオンライブ アニメーション(劇場版先行上映)の第一幕(以後ミリアニ)を見てきました。

https://millionlive-anime.idolmaster-official.jp/

私はミリシタをちょろっと触れた程度のライトユーザですが、それでもミリPとして元ネタありきで語りたいことはたくさんあります。
しかし、それらを抜きに単純にひとつの脚本として見たとしても(細部の展開や台詞回しに個人的な異論、違和感はありますが)よくまとまった優れた構成であると感じました。
他の既存Pから見てもミリアニは非常に好評のようですが、4話の原っぱライブについてはわりと賛否両論あるようです。
否定意見としては

  • 未来の思いつき(わがまま)が実質無批判で採用されている

  • そもそもプロデューサーや話の流れが未来(主人公)びいきである

というものです。
(最初に言っておくと私はこの意見にも一理あると思っています)
というわけで本稿ではミリアニ第四話における"原っぱライブ"に関連する価値観の対立とその描き方、決着のさせ方について出来るだけロジカルに考察したいと思います。

ミリアニ全体における価値観の対立

原っぱライブの話に入る前に、ミリアニにおける価値観の対立について前提を整理したいと思います。
ミリアニでは大きく1話2話と、3話4話とで分かれていて、それぞれ同じ価値観の対立を描いています。(このあたりも構成がまとまっていると評価する理由です)
それは……

  • 多少準備や技術が不足していても、失敗を恐れずとりあえずやってみよう、挑戦してみようという価値観

  • 失敗しないようきちんと準備や訓練を経たうえで万全の体制で臨もうという価値観

言うまでもなく前者は春日未来の価値観で、後者は最上静香や周防桃子の価値観です。未来や静香がこういった価値観を持つに至った経緯として、それぞれの家庭環境が対比されるかたちで描写されるので説得力があります。
1話でアイドルになろうよと提案する未来に対して、静香は最初「簡単に言わないで」と言って拒否しますが、最終的には未来に説得されてオーディションに臨むことになり、無事合格します。
1話2話の問題はシンプルでそれほど拗れてはいません。なぜならこれは未来や静香の"個人の問題"だからです。
一方3話4話の問題は、複数人からなる組織の意思決定が絡むので複雑ですし、失敗した場合の責任という大人の問題も内包しています。
1話2話で成功体験を経た未来は、同じノリで"原っぱライブ"を提案し、結果として壁にぶつかってしまいます。

原っぱライブ対立の経緯

正規の手続きやきちんとした話し合いの場が設けられないまま進んでいく話

未来は実現可能性の問題に触れないまま原っぱライブの開催をあたかも規定事項のようにメンバに展開してしまいます。また、プロデューサーも提案された時点でメンバを招集して話し合いの場を設ける……といった適切な対応を採っていません。
このあたりはそれぞれ経験が不足している二人の落ち度なのですが、展開を自然に見せているのが野々原茜の存在です。彼女は正規の手続きを踏まずに勝手にグッズを発注したり(金の出所は敢えて不明瞭になっています)する子で、原っぱライブをやりたい理由についてプロデューサーが未来に訊ねようとしたときも突然現れて話をさえぎり、あっと言う間に部屋を出て行ってしまいます。(茜ちゃんはそのうち怒られると思います)
結果、光の速度で話が伝播し"なんでもあり"、"お祭り"と拡大解釈された後になってようやく話し合いの場を設ける……という流れです。

根本にある二項対立とはなんなのか

ミリアニにおける価値観の対立については前述しました。それも踏まえて原っぱライブにおける"未来"と"桃子"の対立の観点はなんでしょうか。
私はここにある種の誤解があると考えます。それは……

  • できる or できない

  • やるべき or やるべきでない

ではありません。

  • やりたい or やりたくない

です。
それは未来や桃子のセリフの中でハッキリと明言しています。
ここでいうやるべきでないとは、道徳的に問題がある、規則に反している、正規の手続きを踏んでいない等です。
やりたい or やりたくないの対立に合理的あるいは道徳的な"正解"はありません。だからこそ、双方納得のいく解決は難しいものになります。

主要メンバの性格と価値観のおさらい

原作要素はいったん置いておいてミリアニのみから推測できる4話時点での各キャラクターの性格と価値観です。

未来の性格と価値観

未来は前述の通り、まずはやってみようの精神で行動力があり非常に好奇心旺盛な女の子です。
主人公向きではありますが、リスクを過小評価してしまうという側面もあり作中においては良い面と悪い面がどちらも示されています。
だからこそ未来はアイドル活動という未知のものを試したくて、また他のみんなもそうだと思って原っぱライブの提案にいたります。

桃子の性格と価値観

桃子には子役としての経験があることが示されています。中途半端なものは見せられないというプロとしてのプライドがあり、また未来たちが抱いている未知の活動に対するワクワク感は持っていません。
また、これは注意深く観ていないと分かりづらいですが、子役としての過去の活動において何らかのネガティブな経験や失敗があったことが何気ない呟きから察せられます。加えて、アイドルである自分が設営やオーディション準備など裏方の仕事をすることに不満を持っています。
このことから桃子は失敗やその結果生じる責任に対して敏感であり、以下の理由で「やりたくない」と主張します。(上の方がより重要な理由)

  • 準備不足、技量不足で(チームとして)お客さんにパフォーマンスをしたくない

  • 失敗する可能性が高く、そのときは誰かが責任を取らなければならない

  • 設営など裏方の仕事は自分たちの本来の仕事ではなく、やりたくない

プロデューサーの性格と価値観

プロデューサーもまた新人であり、未来と同じく未知のものに対するワクワク感を共有しています。また、オーディションの選考基準として一緒に歩いていきたい子という点を観点にあげ、アイドルの自主性や主体性、積極性を尊重する姿勢が伺えます。
だからこそプロデューサーは、未来はもちろん、茜に対してもそれほど厳しくしていません。
そもそも現実問題として、こういった方針を採らなければ37人(4話時点)のプロデュースは難しいというのもあるでしょう。
もちろん、若いながらも責任については理解していてアイドルの自主性に任せた結果生じた事態には自分が全責任を負う覚悟はあると思います。
プロデューサーについては過去を示唆する情報はなかったはずなので、こういった価値観を持つに至った経緯は不明です。しかし、765プロのプロデューサーに対する扱いと類似する部分がありチーフも併せて社長の遺伝子を受け継いでいるのかもしれません。(ブラック企業だという説は否定しません……)

以上から、プロデューサーは未来の提案を好意的に受け止めており、できる  or できないの問題を解決するのが自分の仕事だと思っているようです。

静香の性格と価値観

静香は1話時点では、入念な準備をしてから本番に臨むタイプでした。しかし、4話では未来の提案にハッキリと賛同していて、理由は「早く歌いたいから」と言っています。
早く歌いたい本当の理由は原作に触れていれば推測できるかもしれません。(おそらく未来たちとはまた違う理由でしょう)
ではミリアニに出ている情報だけでは賛同した理由は分からないかというとそれは違います。
静香が原っぱライブに賛同する(少なくとも反対はしない)のは、1話2話で未来の価値観に従ってオーディションを受け、合格したという成功体験があるからです。失敗を恐れず一歩を踏み出してみれば新しい世界が見られるかもしれない、という考えを静香が持ち始めていることが分かります。

その他のアイドルについて

その他のアイドルについても、多様な価値観を持ち、原っぱライブに対して様々な意見を口にしています。逆に考えると、原っぱライブに関する意見から彼女たちのおおよその性格や価値観が読み取れます。

対立の後に起こったこと

なぜ桃子を説得できたのか

前述の通り、この対立には合理的あるいは道徳的な正解はなく、理屈では互いを説得できません。理屈の代わりに桃子の説得材料になったと思われるのは以下の3点でしょう。

  • 真壁瑞希の手品

  • 中谷育のやってみたいという純粋な気持ち

  • 未来が原っぱライブをやりたいと思った経緯の説明

結局のところ理屈で説得できない以上、気持ちをぶつけるしかありません。瑞希が見せた手品は100%の成功ではない素人手品でしたが、桃子を和ませ、笑わせることには成功しています。
このことから完璧な成功でなかったとしてもお客さんに伝わるものがあると実体験で伝えられたんだと思います。
また、育や未来の言葉を聞いて桃子に今までなかった「未知のものを早く体験したくてワクワクしている」メンバがいることに気付けたと推測できます。

解決したのはやりたい or やりたくないの問題だけ

4話時点で解決したのは未来と桃子の間の対立だけです。できる or できないの問題や、懸念事項、課題は依然として残っています。そこをどう解決していくかは第二幕に持ち越しとなりましたが、プロデューサーが責任をもってきっとなんとかしてくれるでしょう。

脚本、演出について個人的に問題だと思う点

プロデューサーとして桃子に対するフォローが足りない

対立が決定的になって休憩になったあと、プロデューサーは未来たちに寄り添って改めて言い分を訊こうとしますが、この時点では桃子のフォローに行く方がプロデューサーとしての自然な態度だったように思います。
もちろん、未来から理由をヒアリングしたうえで桃子のもとに行くつもりだったと考えれば一定の理解はできますが、そうだとしても休憩後、メンバ全員に説明する前に桃子本人に納得できたか確認するのが筋ではないでしょうか。
そうできなかった理由として

  • 尺の都合

  • アイドルの見せ場を奪う可能性

が挙げられると思います。前者は身も蓋もないですが、後者は難しい問題で瑞希の手品や翼の音量調整は既存Pにも特に評判が高いシーンです。プロデューサーが適切有能ムーブをすることで、彼女たちの見せ場が霞むあるいは奪われてしまうリスクがあります。
既存Pにとってそれは本末転倒なので、今後もこの問題に関しては難しいさじ加減を求められそうです。

未来の頭を撫でるシーンはいかがなものか

ミリアニは全体を通して、子ども(特に女児)に見せても問題ない、むしろそこを新たな導線にしたがっているように見受けられました。
だとしたらこのあたりの表現にはもう少しセンシティブになった方がよかったと思います。
またプロデューサーはアイドルを対等な仕事仲間と捉え、共に歩んでいきたいと行っていたのでその発言とも矛盾しています。
(頭を撫でるのは立場が上の人間から下の人間に対してすることなので)

おわりに

ミリアニは王道のアイドルもので2023年時点では先行作品も多く、新規向けのアピールは弱いと思っていました。
しかし、実際に最後まで鑑賞してみると、"失敗を恐れず一歩を踏み出してみよう"という明確なメッセージを持ち、それを伝えるために丁寧にエピソードを積み重ねていく実直な作品に仕上がっていました。
それでいて39人ぶんのアイドルの既存Pによる「自分の担当の見せ場も作ってほしい」という願いも(半ばではありますが)叶えているすごい作品だと思います。
第二幕も楽しみにしています。


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