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風にそよぐ墓標事件
こんにちは。
今やアマゾンのKindleで、誰でも自由に出版できる時代が来ました。すると「自分の著書の内容を他人が無断で掲載している」というトラブルが増えていくことが予想されます。そんなときのために、知っておくべき事例として「風にそよぐ墓標事件」(知財高判平成25年9月30日判例タイムズ1418号147頁)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
日航機墜落事故で夫を失った池田知加恵さんは『雪解けの尾根 JAL123便の墜落事故』と題する書籍を出版していました。
その後、ノンフィクション作家として著名な門田隆将さんが集英社から『風によそぐ墓標』という書籍を出版しました。
池田さんは、『風にそよぐ墓標』の記述について、自身の著書を複製または翻案したものだと主張して、『風にそよぐ墓標』の複製・頒布の差止めと民法709条に基づいて518万円の損害賠償を求めました。
2 池田氏の主張
私の著書には「8月12日、自宅を出た夫は、この日の深夜、骨箱の中に入ってようやく戻ってきたのである。7日と17時間ぶりであった。」と書いてあったのですが、門田氏の著書には「骨壺が、大阪・茨木の自宅の門をくぐったのは、8月19日午後11時のことである。8月12日早朝に自宅を出て以来、実に7日と17時間ぶりの帰宅だった。」とあるように、私の著書をほぼ引き写している、あるいは改変していると思います。これは明らかに著作権侵害です。
3 門田氏の主張
私の著書は、実際に起きた出来事とそれに関して当事者が抱いた思想や感情を取り扱うノンフィクションであって、作者が想像によって創作することが許されないことから、創作性を発揮する余地が少ないんですよ。
問題となっている池田氏の記述は、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、私の記述と同一性があるに過ぎない。また、参考文献として巻末に『雪解けの尾根』を明記しているので、著作権侵害に当たらないはずだ。
4 知的財産高等裁判所の判決
同一性のある部分は全体として、それぞれ池田氏が当時抱いた驚愕や困惑、怒りや悲しみなどの感情を表現したものであり、池田氏の個性ないし独自性が表れており、表現上の創作性が認められるので、門田氏は許諾なく池田氏の書籍中の記述の複製又は翻案しているので、著作権侵害にあたる。よって、出版の差止めと池田氏への約58万円の支払いを命じる。
5 確認取材の難しさ
今回のケースは、門田氏が池田氏に対して確認取材を行い、池田氏から著書の贈呈を受けて作品を仕上げたところ、後から無断掲載だとして著作権侵害を主張されるに至っています。このことから、取材の段階から、掲載への許可を書面で残しておくことも必要でしょうね。
では、今日はこの辺で、また。
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