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野球観戦中の負傷事件

こんにちは。

 各種スポーツでは、新たなファンの獲得に向けて、様々な戦略がとられています。しかし、スタジアムなどで試合を観戦しているときに、思わず負傷してしまうこともあります。

 そんなときに、観戦者の負傷は自己責任なのか、それとも球場の管理・運営者の責任なのでしょうか。今日はこのことを考える上で、神戸地裁尼崎支部判平成26年1月30日(TKCローライブラリーNo.25502982)と札幌高判平成28年5月20日(裁判所ウェブサイト)を紹介します。

1 阪神vs横浜戦の事故

 女性が、甲子園球場の3塁側の内野席で阪神タイガースとベイスターズ戦を観戦していたところ、ピッチャーの投げた球を打った新井選手のバットが折れ、その折れたバットが勢いよくフェンスを越えて、女性の右頬に突刺さるという事故が起きました。女性は、甲子園球場を管理する阪神電鉄と、試合の主催者である阪神タイガースに対して、フェンスの設置義務を怠ったなどとして、工作物責任及び不法行為に基づく損害賠償を求めました。

2 神戸地裁尼崎支部の判決

 甲子園球場のバックネット、内野フェンスの高さは「野外体育施設の建設指針」を満たしているので安全性に欠けるところはなく、また観客に対しても試合中に観客席への飛来物により観客に危険が生じるおそれがあることを知らせ、試合の動向に注意を促すことによって、折れたバットに対しても注意を促しているので、球団側に過失があったとは認められない。観客の側にも危険回避のために、打球のみならず、バットに対しても相応の注意が求められる。また、甲子園球場のバックネットの幅を広げたり、内野フェンスを高くすることは、プロ野球観戦の本質的要素である臨場感の確保との関係で困難な面があると言わざるを得ない。よって、球場のバックネットないし内野フェンスに民法717条1項の設置の瑕疵が存在するとは認められない。

3 日本ハムvs西武戦の事故

 女性は、日本ハムファイターズが保護者同伴で小学生を球場に招待するという企画に応募し、夫と小学生の子供3人で札幌ドームに訪れていました。女性は、野球についてほとんど知識もなかったこともあって、1塁内野席で試合を観戦していたときに、突然バッターが打ったライナー性のファーフボールが顔面に直撃してしまい、右目を失明する大ケガを負いました。そのため女性は、日本ハムがファールボールから観客を保護する安全設備を設置することを怠っていたとして、日本ハムと札幌ドーム、そしてドームを所有する札幌市を相手に、民法717条および国家賠償法2条に基づく損害賠償を求める訴えを提起しました。

4 札幌高等裁判所の判決

 札幌ドームにおける内野フェンスの高さは、「屋外体育施設の建設指針」及び他のプロ野球の球場におけるフェンス等と比較しても、特に低かったわけではない。しかし、招待した小学生及びその保護者らの安全により一層配慮した安全対策を講じるべき義務を負っていたものと解するのが相当であるところ、日本ハムファイターズは観戦者にファウルボールの危険性を具体的に説明し、より安全な席への選択肢を用意するなどの安全配慮義務を果たしていなかったので、女性に対して約3350万円の損害賠償の支払いを命じる。

5 球場の管理・運営責任

 今回の事例から、屋外体育施設の建設指針に従い、かつ球場内ではファールボールへの注意喚起などの安全対策をとっていれば、観戦上の事故について管理・運営者は民法上の工作物責任等を負わないと考えられます。

 また、スポーツ観戦の新規顧客を獲得する場合には、招待客についてその安全性を確保することも必要だとされていますので、この点にも十分に注意する必要があるでしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


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