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スルガコーポレーション事件

こんにちは。

 櫻井翔さんが主演していた特上カバチの第7話で、強面の人たちが「(ドンドンドン)山田さ~ん!賃料払ってくださいよ」と大声で取り立てや立ち退き交渉をしていたシーンがあります。

 ドラマだけのことかと思いきや、実際に立ち退き交渉が問題となった事件があります。法律上、立ち退き交渉にどのような問題があるのかを考える上で、「スルガコーポレーション事件」(最決平成22年7月20日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 東証二部に上場していたスルガコーポレーションは、ビルの所有権を取得し、その賃借人らをすべて立ち退かせてビルを解体し、更地にした上で、スルガが建物を建築するという建築条件付で土地を売却する事業を営んでいました。あるときスルガは、ビルに入居していた74人の賃借人を追い出すために、賃借人らとの間で賃貸借契約の合意解除に向けた契約締結交渉を行い合意解除契約を締結した上で各室を明け渡させることをなどの業務を、光誉実業に依頼し、多額の報酬を支払っていました。
 ところが、その後、警視庁組織犯罪対策課は、弁護士資格がないにもかかわらず、報酬を得て立ち退き交渉をしていたとして、光誉実業の社長を逮捕し、検察が起訴しました。

2 検察側の主張

 弁護士法72条、77条は、弁護士または弁護士でない者が報酬を得る目的で、訴訟事件等のほか「その他一般の法律事件」に関して法律事務を取り扱うことをビジネスとするのを犯罪としている。暴力団関係者である被告人たちは立ち退き交渉の過程でビルの電気水道をストップさせたり、ビルでお経を唱えたりするなど、賃借人に対して悪質な嫌がらせを

頻繁に行ったうえで、賃借人を退去させたことに対して数十億円もの報酬を得ていたことは違法である。

【弁護士法72条】
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
【弁護士法77条】
次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。
一 第27条(第30条の21において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
二 第28条(第30条の21において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
三 第72条の規定に違反した者
四 第73条の規定に違反した者

3 被告人の主張

 「事件」にもなってへん立ち退き交渉は、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」にあたらないはずや。つまり、ここでいう法律事件ちゅうのは、争いや疑義が具体化または顕在化していることが必要であってやなあ、今回は明らかな事件性はないんと違うか。

4 最高裁判所の決定

 光誉実業らは、多数の賃借人が存在するビルを解体するため全賃借人の立ち退きの実現を図るという業務を、報酬と立ち退き料等の経費を割合を明示することなく一括して受領し受託したものであるところ、このような業務は、賃貸借契約期間中で、現にそれぞれの業務を行っており、立ち退く意向を有していなかった賃借人らに対し、専ら賃貸人側の都合で、契約の合意解除と明渡しの実現を図るべく交渉するというものであって、立ち退き合意の成否、立ち退きの時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものであったというべきである。
 よって弁護士法72条違反の罪の成立を認めた原審は相当である。 

5 非弁行為

 今回のケースで裁判所は、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」とは、「交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るもの」と判断し、弁護士資格を持たない者による立ち退き交渉が違法であると判断しました。
 不動産バブル時代においては、反社会的勢力が地上げ屋として、大規模開発を進めるために地主との交渉や、建て替えのための賃借人との立ち退き交渉をするなど、弁護士でない者が弁護士業務を行うことを意味する非弁行為が行われていました。しかし、この最高裁決定以後、あからさまな脅しや恐喝、いやがらせなどの行為を伴う立ち退き交渉は減少していきました。立ち退き交渉をする際には、非弁行為にならないように十分に注意しましょう。

では、今日はこの辺で、また。



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