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京都市公益通報事件

こんにちは。

 児童相談所の役割の担っているものとして、子どもの生命や安全を守るための一時保護所というものがあります。虐待などの理由で、一時的に親元から離れて子どもが暮らすことになるのですが、平均滞在期間が29日となっているようです。

 今日は、児童相談所での問題について公益通報をした職員に対して懲戒処分を下したことが問題となった「京都市公益通報事件」(京都地判令和元年8月8日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 京都市の児童福祉施設で、施設長が少女に対して児童虐待を行っていたことから、児童の母親が京都市の児童相談所に対してその対応を求める相談をしていました。しかし、その相談があったときから4カ月間も放置されていたことから、児童相談所虐待班の職員が、京都市の外部公益通報窓口の弁護士に通報をしました。すると、担当児童以外の児童の記録データを閲覧したことや、データを無断でプリントアウトして持ち帰ったこと、さらには職場新年会や組合と京都市との交渉で虐待問題に関する発言をしていたことが逆に問題であるとして、京都市長はその職員に対して3日間の勤務停止の懲戒処分を下しました。そのため、職員は懲戒処分の取消しを求めて提訴しました。

2 京都市職員の主張

 児童相談所運営指針では、職員は、全ての個別の虐待ケースについて情報を共有することが推奨されていた。だから私は、母親からの相談があったにもかかわらず、この相談が虐待通告として受理されていないことに疑問を抱き、調査していたのだ。私の行ったことは、京都市児童相談所の職員としての職責に従った正当な行為であって、逆に京都市児童相談所は、母親からの貴重な情報を生かせなかったことに反省はないのか。また、児童の記録データの持ち出した行為は、公益通報のための正当な行為であって違法性はない。

3 京都市長の主張

 職員は、勤務時間中に、児童情報管理システムにより自己の担当業務に関係のない児童の個人情報が記載された処遇情報データを閲覧したり、情報のコピーを自宅に持ち帰って破棄していたりしたのだ。また、新年会では、酔っ払った状態で、周囲に店員や他の客がいる中で児童の個人情報を含んだ内容について発言していた。これは大問題だ!さらに、当局と組合との交渉において、職員は組合側として参加しておきながら、組合要求とは関係のない事項であった虐待事案に関する事項を話題に出し、児童の記録データを取り出して「ここで読みましょうか」と個人情報を述べようとしていた。これらの行為に対して、地方公務員法29条1項により懲戒処分を下すことに何の問題もない。

4 京都地方裁判所の判決

 職員が担当外の児童のデータを閲覧した行為は懲戒事由に該当しない。また、新年会や組合交渉における職員の発言から秘密の漏洩があったとはいえない。
 しかし、職員が証拠の保全のために複写記録を手元に保管しておくとしても、敢えて職場の外部である自宅に持ち出して、セキュリティの完備されていない自宅にその記録を保管しておく必要性があったとはいい難い。従って、複写記録の自宅への持ち出し行為に関してはその違法性が阻却されるものではない。
 職員にはこれまで懲戒処分歴は存在せず、かえって人事評価においてはいずれの評価項目も良好な評価を得ており、かつ、日頃の勤務態度についても、児童に対して熱心に対応しており、業務面においては特段の問題はないとの評価を得ていたものである。また過去に非公開情報がインターネットを経由して外部から閲覧できる状態となり当該情報の拡散を招いた職員が停職10日の懲戒処分とされた懲戒事例との比較において、今回の行為を行った職員に対する懲戒処分として、複写記録の情報が拡散するまでには至らなかったにもかかわらず、停職3日とする本件懲戒処分を選択することは、重きに失するものといわざるを得ない。そうすると懲戒処分は、社会観念上著しく妥当を欠いて、その裁量権を逸脱又は濫用した違法がある。
 よって、京都市長が行った停職3日の懲戒処分を取り消す。

5 公益通報

 今回のケースで裁判所は、公益通報目的で京都市児童相談所に保管されていた記録を持ち出したことを理由に受けた懲戒処分が、社会観念上著しく妥当性を欠いていて、その裁量権を逸脱した違法な処分であるとして取消しを命じました。この事件は、京都市が最高裁に上告したものの、上告が棄却され、懲戒処分の取消しが確定しています。
 公益目的で通報したことを理由に、懲戒処分等の不利益な取扱いを受けることがないように、令和2年にも公益通報者保護法の改正がなされています。多くの人にこの制度が周知されるように情報を発信していきたいと思います。

では、今日はこの辺で、また。
 


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