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慶応高校裏口入学詐欺事件

こんにちは。

 高校受験を思い出すと、とにかく解答方法をひたすら暗記することに終始していて、もう少し賢く勉強しておけば良かったなあと後悔している松下です。

 さて今日は、そんな高校入試をめぐって、裏口入学をしようと大金を支払った後にその返金が問題となった「慶応高校裏口入学詐欺事件」(東京地判昭和56年9月25日判例タイムズ465号121頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 ふすまなどを販売する会社の社長は、息子を慶應義塾大学に進学できる高校に入学させたいと考えていたところ、宮下尚久という人物から「埼玉県にある秀明学園に荘司哲夫なる人物がいて、彼が慶応義塾大学関係の有力者と親しい」、「荘司に1000万円を渡せば、間違いなく試験の点数に関係なく合格させてもらえる」という話を聞きました。そこで社長は、宮下が指定する喫茶店「一番館」で1000万円を渡しました。その後、宮下から「私の斡旋料200万円のうち、100万円だけでも前払いしてもらいたい」と言われたので、喫茶店「レノン」でさらに100万円を渡しました。ところが、社長は宮下らの話が二転三転することから、裏口入学の斡旋をすることが嘘だったと気づき、支払った1100万円の返金を求めて訴えを提起しました。

2 社長の主張

 不正入学の運動資金ないしその運動の対価という名目で、1100万円をだまし取られただけで、私に違法な点はなく、不法の原因は宮下らのみにあるというべきである。このような場合に、私の損害賠償請求や返還請求が許されないとすれば、不法原因給付を口実として、容易にお金をだまし取り、その後はそのお金の返還を免れるということになり、これは極めて社会正義に反するのではないでしょうか。だから私は、民法708条ただし書により、交付したお金の損害賠償ないし返還請求をすることができるというべきである。

3 宮下らの主張

 私たちは誠心誠意努力しました。裏口入学がうまくいかなかったのは社長の身勝手な態度によるものであり、私たちには社長をだます意思はありませんでした。 
 そもそも、慶応高校へ不正入学させるために1100万円を支払うことは、不法原因給付にあたり、社長はその損害賠償ないし返還請求をすることはできないはずだ。

4 東京地方裁判所の判決

 1100万円が長男を慶応高校へ不正入学ないし裏口入学をさせるために運動資金ないしその対価として交付されたもので、まさに民法708条の不法の原因に該当する。
 息子の不正入学ないし裏口入学を実現せんとする社長の行為は、入学の希望校が私立学校であるところから直接には刑罰法規に触れるものではないが、入学試験の実情について俗にいう受験戦争という言葉まで登場するとおり、その是非はともかく、真摯な勉強態度で公正な実力試験によって入学試験の合格を目指す受験生が数多く存在する昨今の状況下において、財力で不正入学ないし裏口入学を実現しようとする点で、慶応高校およびその関係者の利益のみならず、社会全般の公序良俗に反し、その社会的非難は極めて大きいものと言わざるを得ない。よって、宮下らの行為の違法性が社長の行為の違法性より著しく大きいものとは認められないので、社長の請求を棄却する。

5 高校入試に関する裏口入学

 今回の事件から明るみになったことは、高校入試をめぐって、裏口入学の斡旋をするという名目で、お金のやりとりがなされているということでした。契約の自由の原則があるとはいえ、民法上は裏口入学契約は公序良俗違反として無効とされ、支払ったお金も不法原因給付を理由に返還を求めることができないとされています。

 支払ったお金を返してもらうのが妥当なのか、そうではないかについてはまた別の記事で詳しく検討してみたいと思います。

では、今日はこの辺で、また。


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