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藤原食品事件

こんにちは。

 信用保証協会による代位弁済は怖いという話があるのですが、どういうことかと調べてみると、信用保証協会に対する遅延損害金、つまり延滞金がどんどん増えて借金が膨らんでいくという点に怖さがあると知って驚きましたね。

 さて今日は、信用保証協会による代位弁済後に、連帯保証人と物上保証人の二重資格が問題となった「藤原食品事件」(最判昭和61年11月27日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 藤原食品株式会社は、中部相互銀行から融資を受け、大村あき、藤原誠男、藤原勝昭、藤原誠昭、静岡県信用保証協会がその連帯保証人となりました。また、藤原食品の債務の担保として、大村あきと藤原誠男は中部相互銀行に対して、自身の土地について極度額5000万円の根抵当権を設定しました。その後、静岡県信用保証協会が藤原食品のために約1000万円を代位弁済し、中部相互銀行が大村あきと藤原誠男に対して有する根抵当権の移転を受けました。藤原誠男は、株式会社静岡メイカンから約1300万円を借り受け、自身の土地に根抵当権を設定していました。大村あきが、藤原食品のために、静岡県信用保証協会に対して求償債務約1000万円を代位弁済し、信用保証協会が藤原誠男に対して有する根抵当権の移転を受けました。大村あきは、藤原誠男に対する根抵当権の実行を申し立てて、競売がなされました。 
 裁判所は競売代金について、富士宮市農業協同組合が約430万円、大村あきが約270万円、株式会社静岡メイカンが約500万円という配当表を作成しました。しかし、静岡メイカンは、大村あきが藤原誠男の根抵当権について代位行使できる範囲は、1000万円全額ではなく59万円だけであると主張し、裁判所の作成した配当表を変更して、自らに約741万円、大村あきに約59万円を配当することを求めて提訴しました。

2 株式会社静岡メイカンの主張

 藤原誠男の根抵当権について、大村あきが代位行使できる範囲は1000万円全額ではなく、59万円である。
 なぜなら、藤原誠男と大村あきのように連帯保証人と物上保証人を兼ねる者がある場合には、2つの資格が独立して存在するような取り扱いをすべきだからだ。保証人となるだけでなく自らの不動産に抵当権を設定するなど、より重い負担を引き受けた者は、他の者に対しても、より重い出費を耐え忍ぶということは、公平にかなっているといえる。
 そうすると、藤原食品のために連帯保証人が4人、物上保証人が2人なので、頭数は合計6人となり、1000万円から、連帯保証人4人の負担部分である約666万円を差し引くと、残金は334万円となる。この334万円を大村あきと藤原誠男の不動産価格に応じて、5:1で分けると、大村あきは279万円、藤原誠男は55万円となる。したがって、大村あきは、藤原誠男の根抵当権については55万円しか代位行使できないことになる。これに遅延損害金を加えて、合計約59万円が大村あきに配当されるべきである。

3 大村あきの主張

 過去の判例でも、連帯保証人と物上保証人の2つの資格を兼ね備える者がいたとしても、頭数が1人として数えていた。これは、二重資格を兼ねた者がいたとしても、その担保とするところは唯一の主たる債務に対して全く同一の目的のために連帯保証債務を負担し、かつ物上担保を提供したものに他ならないからだ。そうすると今回は、頭数を4名と数えて、単純に1000万円を4等分し、藤原誠男の根抵当権について元金250万円について代位行使できるはずだ。

4 最高裁判所の判決

 民法501条但書4号、5号の規定は、保証人又は物上保証人が複数存在する場合における弁済による代位に関し、右代位者相互間の利害を公平かつ合理的に調整するについて、代位者の通常の意思ないし期待によって代位の割合を決定するとの原則に基づき、代位の割合の決定基準として、担保物の価格に応じた割合と頭数による平等の割合を定めているが、右規定は、物上保証人相互間、保証人相互間、そして保証人及び物上保証人が存在する場合における保証人全員と物上保証人全員との間の代位の割合は定めているものの、代位者の中に保証人及び物上保証人の二重の資格をもつ者が含まれる場合における代位の割合の決定基準については直接定めていない。したがつて、右の場合における代位の割合の決定基準については、二重の資格をもつ者を含む代位者の通常の意思ないし期待なるものを捉えることができるのであれば、右規定の原則に基づき、その意思ないし期待に適合する決定基準を求めるべきであるが、それができないときは、右規定の基本的な趣旨・目的である公平の理念にたち返って、代位者の頭数による平等の割合をもって決定基準とするほかはないものといわざるをえない。しかして、二重の資格をもつ者は他の代位者との関係では保証人の資格と物上保証人の資格による負担を独立して負う、すなわち、二重の資格をもつ者は代位者の頭数のうえでは2人である、として代位の割合を決定すべきであると考えるのが代位者の通常の意思ないし期待でないことは、取引の通念に照らして明らかであり、また、仮に二重の資格をもつ者を頭数のうえであくまで1人と扱い、かつ、その者の担保物の価格を精確に反映させて代位の割合を決定すべきであると考えるのが代位者の通常の意思ないし期待であるとしても、2つの要請を同時に満足させる簡明にしてかつ実効性ある基準を見い出すこともできない。そうすると、複数の保証人及び物上保証人の中に二重の資格をもつ者が含まれる場合における代位の割合は、民法501条但書4号、5号 の基本的な趣旨・目的である公平の理念に基づいて、二重の資格をもつ者も一人と扱い、全員の頭数に応じた平等の割合であると解するのが相当である。
  よって、静岡メイカンの上告を棄却する。

5 連帯保証人兼物上保証人は頭数1人

 今回のケースで裁判所は、連帯保証人と物上保証人とその両資格を兼ね備える者との間の弁済による代位の割合は、両資格を兼ねる者も1人として、全員の頭数に応じた平等の割合とするのが妥当だとしました。
 かなり複雑な問題ですが、簡潔で実効性のある基準が提示されていると言えるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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