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「中田英寿 日本をフランスに導いた男」事件

こんにちは。

 サッカー元日本代表中田英寿さんと聞くと、守備力の高さだけでなく、セリエAのローマでプレーしていたときに、ユベントス戦で決めたゴールが印象に残っていますね。

 そんな中田英寿さんの自伝に関して、出版社との間で裁判に発展した事件があります。いったいどのようなことが問題となったのか。この点を考える上で、『中田英寿 日本をフランスに導いた男』事件(東京地判平成12年2月29日判定タイムズ1028号232頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 株式会社ラインブックスは、中田英寿さんの生い立ちについて書いた著書『中田英寿 日本をフランスに導いた男』を出版していました。

 ところその中に、中田さんの写真や中学時代の学年文集に掲載した詩などが無断で掲載されていました。そこで中田さんは、書籍がパブリシティ権、プライバシー権、著作権を侵害しているとして、その出版の差止めと約4700万円の損害賠償を求めました。

2 中田さんの主張

 私は、本の出版にあたって、写真やサイン、学年文集の詩の掲載を許可した覚えはありません。一般的に有名なスポーツ選手の氏名や肖像は、それを掲載した商品の販売促進効果をもたらすという顧客吸引力があるので、このパブリシティ権を侵害していると思います。Jリーグ選手の肖像を利用する場合には、事前に選手本人の承諾を得た上で、対価を支払うという慣行に明らかに違反しています。そうでなくても、私の身体的特徴や学業成績、生い立ちなど私生活上の事実が多数公開されているので、これはプライバシー侵害だと思います。また、公になっていない私の中学時代の詩を書籍に掲載することは、公表権の侵害となりますし、複製権の侵害にもあたると思います。

3 ラインブックス主張

 著名人に関する報道や伝記の出版は、次元が異なりパブリシティ侵害にはならない。公的人物は、プライバシー権に関して一般私人とは違う制約を受けることが承認されているはずだ。中田氏のポエムは、学年文集として多くの人に配布されていたので、これはもはや公表された著作物である。公表された著作物は引用して利用できるので、複製権侵害にもあたらないはずだ。

4 東京地方裁判所の判決

 書籍における中田氏の氏名、肖像等の使用は、その使用の目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察すると、中田氏の氏名、肖像等の持つ顧客吸引力に着目して専らこれを利用しようとするものであるとは認められないから、仮に法的保護の対象としてのパブリシティ権を認める見解を採ったとしても、ラインブックスらによる書籍の出版行為が中田氏のパブリシティ権を侵害するということはできない。
 しかし、中田氏の出生時の状況、身体的特徴、家族構成、性格、学業成績、教諭の評価など、サッカー競技に直接関係しない記述は、中田氏に関する私生活上の事実であり、一般人の感性を基準として公開を欲しない事柄であって、かつ、これが一般の人々に未だ知られていないものである。従って、書籍にこれらを掲載した行為は、中田氏のプライバシー権を侵害するものというべきである。
 さらに、学年文集に掲載された詩は、すでに公表されたものと認められるが、書籍に掲載した行為が、著作権法上許された引用に該当するということはできない。
 よって、中田氏による出版の差止めを認め、ラインブックスは中田氏に対して385万円を支払え。 

5 スポーツ選手の私生活とプライバシー

 今回のケースで裁判所は、中田氏がプロサッカー選手になる以前の行動や写真につき一切公表したくないという基本的な考え方を持っていたことなどを理由にプライバシー侵害を認め、また詩の全文を中田氏の直筆の原稿をそのまま複写して書籍に掲載することが引用にあたらないとして著作権侵害も認めました。
 プライバシー権侵害につき200万円、著作権侵害につき185万円の損害賠償が認められていますので、出版以外のブログなどでの掲載にも十分に注意する必要があるでしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


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