見出し画像

浮気した側からの離婚請求事件

こんにちは。

 男性は自分の地位が上がるときにテストステロン値が高まるので、浮気しやすくなるという研究データがあるようです。

 法律の世界では、既婚者の浮気が問題となるのですが、1952年の「踏んだり蹴ったり事件」(最判昭和27年2月19日)では、浮気した側(有責配偶者)から離婚請求がされたとしても裁判所はこれを認めないという態度を示していました。

 しかしその後に、この考え方について修正が求められる事件が発生しました。一体どのようなことが問題があったのかを考える上で、「浮気した側からの離婚請求事件」(最大判昭和62年9月2日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 准一(仮名)は、千秋さん(仮名)は、昭和12年に結婚しました。2人の間には子どもがいなかったので、マリさん(仮名)の子ども2人と養子縁組しました。ところが昭和24年ごろになると、准一とマリが不倫関係にあったことが発覚し、准一が家を出てマリと2人暮らしを始めるようになりました。昭和59年になって、准一が離婚調停を申し立てて、「現金100万円と油絵1枚を提供するから、離婚して欲しい」と離婚を求めたが、千秋が「絶対に別れない」と不調に終わったので、東京家庭裁判所に対して離婚を求めて提訴しました。

2 准一の主張

 私と千秋との夫婦生活が破綻し、別居してから35年がたちました。私はもう70歳となりました。千秋と別居するときにも、当面の生活に困らないようにと建物を売ってその代金を生活費として渡していました。
 裁判長、民法770条1項5号には離婚が認められる条件として「その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」とありますので、まさに今が千秋との婚姻を継続できない状態なのではないでしょうか。マリとの間に子どももいるのに、何年たっても離婚ができないというのはおかしいと思いませんか。どうか、私の離婚請求を認めてください。

3 千秋の主張

 夫が家を出て以来、私は兄の家の一部屋を借りて住み、人形製作など技術を身につけ、昭和53年ごろまで人形店に勤務するなどして何とか生活を立ててきました。准一は精密測定機器の製造を目的とする2つの会社の代表取締役、不動産賃貸を目的とする会社の取締役をして経済的に極めて安定した生活をしているにもかかわらず、私に一切生活費を渡してくれませんでした。現在、私は無職で資産を持っていません。このまま離婚が認められると、夫の遺産を一切相続できなくなり、あの憎きマリに財産を取られることになります。裁判長、もともと准一が浮気をしてマリに入れあげ、夫婦仲が険悪となったにもかかわらず、准一から離婚を請求してきて、私がそれを拒否したとしても離婚が認められるとしたら、それはひどいと思いませんか。

4 最高裁判所大法廷判決

 婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもつて共同生活を営むことにあるから、夫婦の一方又は双方が既に右 の意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至つた場合には、当該婚姻は、もはや社会生活上の実質的基礎を失つているものというべきであり、かかる状態においてなお戸籍上だけの婚姻を存続させることは、かえつて不自然であるということができよう。しかしながら、離婚は社会的・法的秩序としての婚姻を廃絶するものであるから、離婚請求は、正義・公平の観念、社会的倫理観に反するものであつてはならないことは当然であつて、この意味で離婚請求は、身分法をも包含する民法全体の指導理念たる信義誠実の原則に照らしても容認されうるものであることを要するものといわなければならない。
 民法770条1項5号所定の事由による離婚請求が、有責配偶者からされた場合において、当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たっては、有責配偶者の責任の態様・程度を考慮すべきであるが、相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等が斟酌されなければならず、更には、時の経過とともに、これらの諸事情がそれ自体あるいは相互に影響し合って変容し、また、これらの諸事情のもつ社会的意味ないしは社会的評価も変化することを免れないから、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないのである。
 そうすると、有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である。
 よって、原判決を破棄し、本件を東京高等裁判に差し戻す。

5 有責配偶者からの離婚請求が認められる条件

 今回のケースで裁判所は、自ら不倫をして離婚原因を作った夫から離婚請求が認められるためには、①別居期間が長期にわたり、②未成熟の子がおらず、③離婚により極めて過酷な状態に置かれるわけではない、という条件を全て満たす必要があるとしました。

 差し戻された東京高等裁判所は、慰謝料1000万円、財産分与1500万円を支払うことを前提に離婚を認めています。有責配偶者からの離婚請求の問題では、妻として旦那に愛情が全くないのに、若い娘とは絶対に再婚させないという報復感情で離婚を拒絶していることもありますので、人の恨みを買わないように常に心がけることが重要でしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?