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共有地の相続事件

こんにちは。

 人が亡くなったときに、相続人が誰もいないと、その財産はどうなるのでしょうか。答えは、国庫に帰属、つまり国に没収されることになります。さらに、2023年4月からは相続土地国庫帰属制度が始まります。

 今日は、複数人で共有している土地の所有者が死亡した場合に、その土地の持分の相続をめぐって争われた「共有地の相続事件」(最判平成元年11月24日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 夫が所有していた土地があったのですが、夫の死亡により、その兄弟ら28人と妻が土地を相続しました。その後、土地の3分の2について持分があった妻が死亡したときに、相続人がいなかったことから、妻の看護をしていた遠い親戚らが特別縁故者として妻の土地の持分の移転登記手続を申請しました。これに対して、大阪法務局の登記官は、申請通りの登記をすべきではないとして、これを却下する決定を下したために、遠い親戚らは却下処分の取消しを求めて提訴しました。

2 遠い親戚らの主張

 亡くなった妻は、土地の持分が私たちに帰属することを望んでいたので、特別縁故者としてその持分の取得が認められるべきです。逆に赤の他人の土地の共有者が、全く予期せぬ「棚からボタ餅」となるのはおかしいです。もし、共有者を保護すべき事情があるのであれば、家庭裁判所で分与しない判断をすれば不都合な結果を回避できるではないでしょうか。

【民法958条の3第1項】
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。

3 登記官の主張

 民法255条を読むと、共有者の1人が死亡して相続人がないときは、その持分は他の共有者に帰属すると書いてある。この「相続人」に特別縁故者を含めることは困難である。また、特別縁故者の規定は、相続財産一般についての規定であり、共有に関する規定は相続財産の特別の規定であるので、共有に関する規定が優先するはずである。

【民法255条】
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。

4 最高裁判所の判決

 共有者の1人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、その共有持分は、他の相続財産とともに、特別縁故者に対する財産分与の対象となり、その財産分与がされず、当該共有持分が承継すべき者のないまま相続財産として残存することが確定したときにはじめて、民法255条により他の共有者に帰属することになると解するべきである。
 よって、原判決で登記すべきものではないとの却下した処分は違法であるので、これを破棄する。

5 特別縁故者が共有者より優先

 今回のケースで裁判所は、土地の共有者の1人が相続人がいない状態で死亡したときに、その持分は特別縁故者に対する財産分与の対象となり、その財産分与がされないときには、他の共有者に帰属するとしました。
 法律の解釈で見解が分かれた場合に、一度最高裁判所の判決が下されると、最高裁が自ら判例変更をしない限り、最高裁判所の考えが維持されていくことに注意する必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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