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大阪空港事件

こんにちは。

 伊丹空港に着陸する様子を飛行機の中から撮影した動画を見ていると、ビルが密集する街中に飛行機が突っ込んでいくんじゃないかと思えるぐらいドキドキしますね。

 さて今日は、市街地での飛行機の飛行による騒音が問題となった「大阪空港事件」(最大判昭和56年12月16日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 伊丹空港の周辺に住む住民は、飛行機の騒音や振動に悩まされていました。そのため、兵庫県川西市の住民たちは、国に対して午後9時~午前7時までの飛行差止めと、過去の被害として1人50万円、また将来の損害として毎月1人1万円の損害賠償を求めて提訴しました。

2 住民の主張

 わたしら、ジェット機などの騒音、排気ガス、悪臭、振動などで、テレビは聞こえへんわ、耳が痛くなるわ、寝られへんわ、子どもの教育にも悪いわ、もう生活がめちゃくちゃやねん。ほんで、あんな間近に飛行機が飛びよるから、いつか飛行機が落ちるんとちゃうかと、怖くて怖くてしゃあないわ。
 ほんで、憲法13条と25条を見たら、個人の生命・身体の安全、人間らしい生活を営むことが保障されるって、書いてあるやんか。
 せやから、夜9時~朝の7時までの空港の使用を禁止してほしいし、損害賠償を払ってもらわなあかんわな。

3 国の主張

 現代の社会では、空港が最も迅速な交通、輸送の手段として社会的経済的に重要な役割を果たしており、空港利用という公共の利益のためなら、住民は騒音被害を受忍せざるを得ないのではないか。
 また、訴えている住民の中には、航空機騒音が問題となっている事情を知らずに、仲介業者のすすめるまま夫の勤務先に近い現住所を選んで入居し、事前に十分な調査をしなかったのだから、そのような場合には損害賠償は認められないはずだ。

4 最高裁判所大法廷判決

 空港の離着陸のためにする供用は運輸大臣の有する航空管理権と航空行政権という二種の権限の、総合的判断に基づいた不可分一体的な行使の結果とみるべきであるから、住民の請求は、不可避的に航空行政権の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を含むことになり、行政訴訟の方法により何らかの請求ができるかどうかはともかく、通常の民事上の請求としては適法性を欠いている。
 大阪国際空港は第一種空港として大量の航空機の離着陸を予定して設置されたものであるにもかかわらず狭隘であり、立地条件が劣悪であって、これに多数のジェット機を含む航空機が離着陸することにより周辺住民に騒音などによる甚大な影響を与えることは避けがたい状況にあり、しかも空港の設置・管理者たる国は被害の発生を防止するのに十分な措置を講じないまま空港を大量の航空機の離着陸に継続的に使用させてきた。かかる空港供用につき違法性が肯定される限り、空港の設置・管理に瑕疵があるものといえる。
 空港利用の公共的利益の実現は、訴えた当事者を含む周辺住民という限られた一部少数者の特別の犠牲の上でのみ可能であって、そこに看過できない不公平が存することは否定できず、国のとってきた被害対策も十分とはいえない。  
 よって、大阪国際空港の供用の差止請求に関する住民の請求を却下し、一部の住民の損害賠償請求を容認した部分を破棄し、大阪高裁に差戻す。

5 第一小法廷への介入

 今回のケースで裁判所は、飛行機の夜間飛行に苦しむ住民の請求に対して、過去の被害についての損害賠償を認めたが、将来受けるであろう被害については認めず、また民事上の請求として夜間飛行の差止め請求は認められないとしました。ただし、その後の和解で、午後9時から午前7時までの離着陸が禁止されることになりました。午後9時を超えると、伊丹空港に着陸ができず、関西国際空港に飛ばされることになりますので、注意する必要があります。
 またこの事件については、刑法学者で最高裁判所の判事を務めていた団藤重光氏のノートが見つかりました。それによると当初、第一法廷で審理が行なわれ、大阪高裁の判決を容認することで住民側の勝訴が合意されていたところ、突然国側が大法廷回付を要望する上申書を提出した上、村上元最高裁判所長官から第一小法廷の岸上裁判長に電話があったことについて、団藤氏は「法務省側の意を受けた村上氏が大法廷回付の要望をされた由。この種の介入は怪しからぬことだ」とコメントしていました。今後は司法権の独立についても検証をする必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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