医学書表紙デザイン類似事件
こんにちは。
最近、電子教科書の出版をたくらんでいるのですが、自ら作成した表紙のデザインに、センスのかけらも感じることができずに愕然としている松下です。
さて今日は、「医学書表紙デザイン類似事件」(東京地判平成22年7月8日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
1879年(明治12年)創業の医学系出版社である株式会社南江堂は、『入門漢方医学』という本を出版していました。
ところが、ブレーン出版株式会社から出版された『入門歯科東洋医学』の表紙のデザインが、南江堂の『入門漢方医学』と酷似していました。
そこで、南江堂はブレーン出版に対して、著作権侵害を理由に、印刷や出版の差し止めと、民法709条に基づき約760万円の損害賠償を求めて訴えを提起しました。
【民法709条】
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2 南江堂の主張
わが社が出版した本の表紙には、3か所に大きな正方形が配置され、周辺には縦棒や横棒を組み合わせたデザインとなっており、これは思想、感情が創作的に表現された著作物にあたると思います。
【著作権法2条1項1号】
著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
ブレーン出版の表紙デザインは、わが社のデザインにある正方形を円に変換したものにすぎないのです。これは、わが社の書籍の表紙をコピーあるいは改変したものであるで、著作権の侵害であることは明らかです。
3 ブレーン出版側の主張
南江堂さんの表紙デザインを参考にしたことは認める。しかし、そもそも本の表紙のデザインは著作権法上の著作物ではない。デザイン(意匠)が美術の著作物にあたるのは、絵画や彫刻と同じように純粋な美術として鑑賞性があるときに限られるはずだ。著作権侵害がないのであれば、何ら責任を負うことはないはずだ。
4 東京地方裁判所の判決
東京地方裁判所の裁判長:「表紙は単に、正方形と線(縦棒、横棒)を漠然と並べたにすぎないものではなく、①大小正方形及び太さの異なる縦横の棒の配置ないし配色、②書名、編集名及び出版社名の配置、字体ないし文字の大きさなどの具体的な表現方法において、製作者の思想又は感情が創作的に表現されたものである。よって、いわゆる純粋美術に当たるものであり、著作権法上の著作物として保護されるべきものである。ブレーン出版は表紙を変更しなければ出版してはらず、また南江堂に50万円を支払え」。
5 本の表紙にも著作権がある
「本の宣伝にもなるので、表紙くらいブログやSNSにアップしてもいいでしょ」と思いがちですが、マンガや本の表紙に著作権があるとされている以上は、慎重になるべきでしょう(もちろん出版社が書名、著者名、出版社名を明記し、掲載サイトを知らせることで許可を出している場合もあります)。例えば、ブログで書籍を紹介する場合には、Amazonのリンクなどを引用しておくのが無難でしょうね。
では、今日はこの辺で、また。
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