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エーアールエー事件

こんにちは。

 飲食チェーン湯佐和の事業を父親から引きついだ湯澤社長は、40億円の借金に苦しんでいましたが、会社分割など様々な改革により、経営を立て直したという話を聞いて驚きましたね。

 さて今日は、会社の分割が詐害行為にあたるのかどうかが問題となった「エーアールエー事件」(最判平成24年10月12日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 エーアールエー債権回収株式会社は、別の会社から株式会社松商に対する債権の管理と回収を委託されていました。松商は会社分割により新会社を設立し、松商が所有していた不動産を新会社に譲渡しました。すると、エーアールエーは、それが詐害行為にあたるとして、新設会社に対してその譲渡の取消しと、所有権移転登記の抹消登記手続きを求めて提訴しました。

2 エーアールエーの主張

 不動産は、新設分割によって松商から新会社に承継されていたが、松商が負担していた保証債務は新会社に承継されず、松商が負担したままである。しかも、松商には新設会社の株式以外に全く資産を保有していない。つまり、今回の会社分割は、松商の重要な資産を松商から持ち出すためになされたとしか言えないではないか。

3 新設会社の主張

 会社法は債務超過の会社が分割会社となるような会社分割を認めているので、会社分割が詐害行為取消の対象となるとすれば、それは会社法の趣旨に反することになる。また、わが社には詐害の意思はなく、仮に詐害行為取消権が認められるとすると、新設分割会社と新設分割設立会社との間の法律関係が錯綜し、法的安定性が害されるので、詐害行為取消の対象にはならないはずだ。

4 最高裁判所の判決

 会社法その他の法令において、新設分割が詐害行為取消権行使の対象となることを否定する明文の規定は存しない。また、会社法上、新設分割をする株式会社の債権者を保護するための規定が設けられているが、一定の場合を除き新設分割株式会社に対して債務の履行を請求できる債権者は、その規定による保護の対象とはされておらず、新設分割により新たに設立する株式会社にその債権に係る債務が承継されずにその規定による保護の対象ともされていない債権者については、詐害行為取消権によってその保護を図る必要性がある場合が存するところである。
 株式会社を設立する新設分割がされた場合において、新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず、新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は、民法424条の規定により、詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される。この場合において、その債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の効力を否定することができるというべきである。
 よって、新設会社の主張を棄却する。

5 平成26年会社法改正

 今回のケースで裁判所は、会社が新設分割をして、優良資産を新設会社に承継させ、債務を承継させない場合、新設分割をした株式会社の債権者は詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができるとしました。
 また、平成26年の会社法改正により、残存債務者を害することを知って会社分割がなされた場合には、残存債権者は、そのような会社分割がなされたことを知った時から2年以内に、承継会社に対して承継した財産の価額を限度として、債務の履行を請求することができるとされています(会社法759条4項、764条4項)。濫用的な会社分割に対する対応策として是非知っておいてもらえると幸いです。
 では、今日はこの辺で、また。


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