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ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件

 こんにちは。

 フランス旅行が実現したら、真っ先にやってみたいことの第1位がムーラン・ルージュ(赤い風車)でフレンチを堪能すること、第2位がエッフェル塔の下で「翼くん!」という岬君のセリフを言ってみたい松下です。

 さて、今日は1934年の映画「ムーラン・ルージュ」で使われていた曲との酷似が問題となった「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件」(最判昭和53年9月7日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 アメリカのハリー・ウォーレンは「The Boulevard of Broken Dreams」(夢破れし並木路)を作曲し、この曲が1934年のアメリカ映画『ムーラン・ルージュ』の主題歌に使用されていました。その後、この曲について株式会社インターナショナル・ミュージック・パブリッシャーズは、日本における著作権を期限付きで譲り受けました。

 1963年に鈴木道明(どうめい)さんは、「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」という曲を公表しました。

 ところが、この鈴木さんの曲がウォーレンさんの曲に酷似していたので、インターナショナルミュージック側が「ウォーレンの曲とそっくりだ!」「盗作だ!」と主張して、鈴木道明氏と鈴木氏から著作権の譲渡を受けていた株式会社日音に対して、著作権侵害を理由に損害賠償を求めたのです。

2 インターナショナルミュージック側の主張

 鈴木氏は、ウォーレンの楽曲を複製・改作している。アメリカでヒットした映画の主題歌だから、一般大衆に広く知れ渡った曲のはずだ。鈴木氏は東京放送で音楽番組などの企画政策の責任者をしており、流行りの歌の作詞作曲に従事していたのだから、ハリー・ウォーレンさんの曲に接する機会があったはずだ。

3 鈴木道明側の主張

 ウォーレンさんの曲のことは知らなかった。偶然に曲調が一致したに過ぎない。実際に日本では「ムーラン・ルージュ」の映画は全くヒットしておらず、レコードも3年間で1万4000枚しか売れていなかったはずだ。

4 最高裁判所の判決

 著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再生することをいうと解すべきであるから、既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらず、著作権侵害の問題を生ずる余地はない。よって、鈴木氏に著作権侵害はないので、インターナショナルミュージック側の請求を棄却する。

5 曲の偶然の一致(暗合)には著作権は及ばない

 今回の事件では、①ハリー・ウォーレンの曲はレイニーナイトの作曲時に誰もが知っていたものとはいえないこと、②鈴木氏の地位や経歴だけで知っていたとは推認することができないこと、③ハリー・ウォーレンを知らなかったら、レイニーナイトを作曲できないほど酷似しているわけではないこと、が認定されました。これ以外に重要なことは、他人の著作物を知らなかったことについて、不注意(つまり過失)があったかどうかが問われなかったということです。これらのことをまとめると以下の通りとなります。

もともとある作品に依拠 + 同一性 ⇒ 著作権侵害 

 これらのことを意識しながら、作品が「盗作だ!」と言われないように気をつける必要がありそうですね。

では、今日はこの辺で、また。


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