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 こんにちは。

 北海道の広大な大地でやってみたいことは何ですかと聞かれると、速攻でファットバイクでのツーリングと答える松下です。

 今日は、「江差追分(えさしおいわけ)事件」(最判平成13年6月28日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 ノンフィクション作家の木内宏さんは、『北の波濤に唄う』という著書を出版しました。

 その後、NHK函館放送局が製作した「ほっかいどうスペシャル・遥かなるユーラシアの歌声ー江差追分のルーツを求めてー」が放送されました。この番組を見ていた木内氏は、そのナレーションの順序や内容を聞いて、自身の著書のプロローグに使っていた表現が無断で翻案されたとして、NHKを相手に200万円の損害賠償を求めたのです。

2 木内氏の主張

 NHKのナレーションで「9月、その江差が、年に一度、かつての賑いを取り戻します。民謡、江差追分の全国大会が開かれるのです。大会の3日間、町は一気に活気づきます」とあったが、私の著書の「その江差が、9月の2日間だけ、とつぜん幻のようにはなやかな1年の絶頂を迎える。日本じゅうの追分自慢を一堂に集めて、江差追分全国大会が開かれるのだ」という部分と、ほとんど同じじゃないか!追分節の起源について誰も試みたことのない方法で記述したもので、決して普遍的なものではない。これは翻案権(※)の侵害である。

※ 既存の著作物を翻訳・変形・脚色する権利のこと

【著作権法27条】
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

3 NHKの主張

 たとえ、江差町が最もにぎわうのが江差追分全国大会の時であるとすることが江差町民の一般的な考え方とは異なるもので、木内氏に特有の認識ないしアイデアであるとしても、その認識自体は著作権法上保護されるべき表現とはいえず、これと同じ認識を表明することが禁止されているわけではない。また、具体的な表現を見ても、全く同じではないので、著作権侵害ではないはずだ。

【著作権法2条1項1号】
著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

4 最高裁判所の判決

 既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないと解するのが相当である。よって、翻案権の侵害に当たらないので、木内氏の請求を棄却する。

5 アイデアと表現をどう区別するのか

 今回のケースでは、似ている部分が①アイデアのような表現それ自体でなく、②創作性のないありふれた表現である、場合には翻案権の侵害ではないとしました。

 例えば、私が「すごいアイデアを思いついたから聞いてくれ。いろいろな能力を持ったヒーローたちが悪の組織から地球を守ると話だ」というアイデアでマンガを書いても、僕のヒーローアカデミアやワンピース、ハンターハンター、X-MENのパクリだとは言われないはずですが、「麦わら帽子をかぶった主人公が海賊たちと能力バトルをして大秘宝を探す」というストーリーにすると盗作だと言われる可能性があります。つまり、この「表現上の本質的な特徴」を直接感じ取ることができる場合(ややあいまいであるが)、翻案権の侵害となることが多いので、くれぐれも注意しましょう。

では、今日はこの辺で、また。


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