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興銀リース事件

こんにちは。

 医療機器と聞くと、MRIや人工呼吸器などを思い浮かべるのですが、包帯やガーゼ、コンタクトレンズなども含まれていると知って驚きましたね。

 さて今日は、医療機器の代金の担保として将来受け取れる診療報酬の譲渡が問題となった「興銀リース事件」(最判平成11年1月29日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 興銀リース株式会社は、小西医師が社会保険診療報酬支払基金に対して持っていた診療報酬債権を譲り受ける契約を結び、これについて確定日付のある証書で社会保険診療報酬支払基金に対して通知がなされました。その後、小西医師が国税を滞納していたことから、仙台国税局長は平成元年7月から平成2年6月までの1年間に小西医師が社会保険診療報酬支払基金から受け取る予定の診療報酬を差押えました。社会保険診療報酬支払基金は、興銀リースと国のどちらに報酬を払うべきかがわからなくなったため、法務局に診療報酬を供託しました。そこで、国は供託金の還付請求権の確認を求めて提訴しました。

2 国の主張

 診療報酬は我々が差し押さえたのだから、我々のものだ。そもそも、興銀リースは将来発生する診療報酬の債権譲渡を受けたというが、1年を超えたまだ発生していない診療報酬を譲渡することはできないはずだ。興銀リースは、医者との間で債権譲渡契約を結んだというが、小西医師の診療科目はおろか、契約に至った経緯が不明なので、そんな将来発生するかどうか不透明な債権を譲渡する契約は無効である。

3 興銀リースの主張

 我が社は、医療機器を小西医師にリースし、その担保として昭和57年12月から平成3年2月までの診療報酬について債権譲渡を受けたのだ。将来発生する診療報酬債権を目的とする債権譲渡契約は、始期と終期を特定して譲渡の範囲が確定されていれば、有効に債権譲渡ができるはずだ。

4 最高裁判所の判決

 将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約にあっては、契約当事者は、譲渡の目的とされる債権の発生の基礎を成す事情をしんしゃくし、右事情の下における債権発生の可能性の程度を考慮した上、右債権が見込みどおり発生しなかった場合に譲受人に生ずる不利益については譲渡人の契約上の責任の追及により清算することとして、契約を締結するものと見るべきであるから、右契約の締結時において右債権発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然に左右するものではないと解するのが相当である。
 もっとも、契約締結時における譲渡人の資産状況、右当時における譲渡人の営業等の推移に関する見込み、契約内容、契約が締結された経緯等を総合的に考慮し、将来の一定期間内に発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約について、右期間の長さ等の契約内容が譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らし相当とされる範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるものであると見られるなどの特段の事情の認められる場合には、右契約は公序良俗に反するなどとして、その効力の全部又は一部が否定されることがあるものというべきである。
 今回の契約による債権譲渡については、その期間及び譲渡に係る各債権の額は明確に特定されていて、小西医師の債権者に対する対抗要件の具備においても欠けるところはない。小西医師が興銀リースとの間で契約を締結するに至った経緯、契約締結当時の小西医師の資産状況等は明らかではないが、診療所等の開設や診療用機器の設置等に際して医師が相当の額の債務を負担することがあるのは周知のところであり、この際に小西医師が担保として提供するのに適した不動産等を有していないことも十分に考えられるところである。このような場合に、医師に融資する側からすれば、現に担保物件が存在しなくても、この融資により整備される診療施設によって医師が将来にわたり診療による収益を上げる見込みが高ければ、これを担保として右融資を実行することには十分な合理性があるのであり、融資を受ける医師の側においても、債務の弁済のために、債権者と協議の上、同人に対して以後の収支見込みに基づき将来発生すべき診療報酬債権を一定の範囲で譲渡することは、それなりに合理的な行為として選択の対象に含まれているというべきである。このような融資形態が是認されることによって、能力があり、将来有望でありながら、現在は十分な資産を有しない者に対する金融的支援が可能になるのであって、小西医師がそのような債権譲渡契約を締結したとの一事をもって、小西医師の経済的な信用状態が当時既に悪化していたと見ることができないのはもとより、将来において状態の悪化を招来することを免れないと見ることもできない。してみると、小西医師が今回の契約を締結したからといって、直ちに、その債権部分に係る契約の効力が否定されるべき特段の事情が存在するということはできない。そうすると、契約の効力を否定して国の請求を認容すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用の誤りがある。
 よって、原判決を破棄し、第一審判決を取消し、国の請求を棄却する。

5 将来債権譲渡の明文化

 今回のケースで裁判所は、医者がお金を借りたときの担保として将来8年3ヵ月にわたって受け取れる診療報酬を譲渡する契約を締結したとしても、その効力が直ちに否定されるわけではないとしました。
 その後の民法改正により、まだ債権が発生しておらず、将来発生する債権についても債権譲渡をすることが可能だとされていることも合わせて知っておいてもらえれば幸いです。

【民法466条の6】
① 債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。
② 債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する。
③ 前項に規定する場合において、譲渡人が次条の規定による通知をし、又は債務者が同条の規定による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡制限の意思表示がされたときは、譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして、第四百六十六条第三項(譲渡制限の意思表示がされた債権が預貯金債権の場合にあっては、前条第一項)の規定を適用する。

では、今日はこの辺で、また。


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