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こんにちは。

 泉岳寺といえば、
忠臣蔵の赤穂浪士たちにゆかりのあるお寺として有名ですが、あだ討ちが就職活動のために行なわれたという説があることに驚きましたね。

さて今日は、泉岳寺という駅名が問題となった「泉岳寺事件」(東京高判平成8年7月24日判例時報1597号129頁)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 1968年に、東京都は都営地下鉄泉岳寺駅を開業しました。1993年になると、宗教法人泉岳寺は東京都に対して、駅名に寺の名前を使わないで欲しいとして、不正競争防止法を根拠に、その使用の差止めを求めて提訴しました。

2 泉岳寺の主張

 都営地下鉄泉岳寺駅ができてからは、間違い電話がかかってきたり、宅急便が間違って届けられたり、待ち合わせ場所の混乱があったりして、迷惑極まりない。さらには泉岳寺マンションなどの建物が増えてきて、泉岳寺が不動産ビジネスで儲けていると勘違いされる恐れもある。宗教法人についても、人格権である氏名権があり、その侵害行為の差止を求めることができるはずなので、駅名の使用の差止めを求める。

3 東京都の主張

氏名権又は宗教法人の名称に基づいて差止請求が認められるためには、金銭賠償では補填できない重大な結果が発生していることが必要だと考えられますが、現実にはそのような事態には陥っていません。また、泉岳寺駅は、その場所に由来するもので、宗教法人の名称を表しているわけではありませんし、その名称を損うものではないはずです。開業して3年間は、泉岳寺さんから何の申出もなかったことから、名称の使用について暗黙の承諾があったと言えるのではないでしょうか。

4 東京高等裁判所の判決

 泉岳寺の行う営業と東京都の行っている都営地下鉄事業とは明白に区別できる別種の営業とみられるものであるから、一般人が、東京都の駅名使用行為により泉岳寺駅の営業ないし都営地下鉄浅草線の地下鉄事業を泉岳寺ないしその関連企業による営業と誤認し、あるいは、泉岳寺と東京都とが営業上緊密な関係にある若しくは何らかの経済的、組織的関連があると誤認することは通常考えられず、したがって、「泉岳寺」との名称が著名であることを考慮に入れても、広義の混同を含め営業の混同を生ずるおそれがないことは明らかである。
 宗教法人の名称は、当該法人が宗教法人として尊重される基礎であり、その宗教法人の人格的なものの象徴であって、法人について認めることができる個別的人格権の一つとして、これを自然人の氏名権に準ずるものとして保護されるべきであるから、宗教法人の名称を地方公営企業の鉄道の駅名に採用する場合であっても、その名称の採用については宗教法人の意向について十分配慮されなければならないというべきである。
 しかし、今回の場合は、私人が他人の氏名を私利のために冒用した場合とは異なり、公衆の便宜のために公共的存在である著名な寺院の名称を公共的な地方公営企業の鉄道の駅名として採用し、これを使用する場合であって、東京都の駅名使用行為には公益性が認められること、著名な宗教法人であれば、その名称は広く世人の承知しているところであり、泉岳寺が主張しているような駅名として使用されること自体によってその名称の著名性が希釈化されるということはなく、宗教法人としての泉岳寺の有する人格的利益が損なわれているとは認められないこと、また、駅名決定の経緯及び長期間にわたり泉岳寺からの明確な異議がなかったこと、及び、駅名使用行為を差止めることにより東京都が被る不利益を全体的に考察すれば、東京都の駅名使用行為は、泉岳寺がその名称について持つ氏名権に準ずる個別的人格権を違法に侵害しているものと認めることはできないものといわざるをえず、したがって、泉岳寺の氏名権に基づく本件駅名使用行為の差止請求は認められない。
 よって、泉岳寺の控訴を棄却する。

5 駅はOKでもマンションはNG?

 今回のケースで裁判所は、泉岳寺駅は東京都の地下鉄事業であることが明らかであり、泉岳寺の経営と混同される恐れはないとして、泉岳寺駅の名称使用の差止を認めませんでした。その後に、泉岳寺側の上告も棄却され、この高等裁判所の判決が確定しています。
 駅名の変更は乗車券や定期券、駅案内標識など多大な費用や労力の負担があったことから、結果的に駅名の使用差止は認められませんでしたが、マンションの名称については不正競争となる可能性もありますので、十分に注意する必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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