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箕面忠魂碑慰霊祭事件

こんにちは。

 大阪には箕面(みのお)という難読の地名があるのですが、地元の人はみんな「箕面温泉スパーガーデン」のCMを思い出すようです。

 さて今日は、箕面が舞台となった憲法を学ぶ上で有名な「箕面忠魂碑慰霊祭事件」(最判平成5年2月16日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 退役軍人によって構成された旧帝国在郷軍人会篠山支部箕面村分会は、大正5年に箕面小学校用地に隣接した箕面村役場の敷地内に忠魂碑を建立しました。その後、GHQが「忠霊塔忠魂碑等の措置について」の各通達を発して、学校及びその構内並びに公共用地に存在する忠魂碑等を撤去する方針を打ち出したことから、昭和22年に分会員によってその碑石部分だけが取り外されてその付近の地中に埋められ、基礎部分はそのままの状態なっていまいた。その後、戦没者遺族らの間でこれを再建する話が持ち上がり、昭和26年に埋められた碑石が掘り出され、旧忠魂碑が元通り再建され、箕面地区戦没者遺族会の会員が忠魂碑を清掃管理し、遺族会主催で毎年、忠魂碑の前で神社神職または僧侶の主宰の下に隔年交代で慰霊祭が行われていました。
 昭和50年になると、箕面市立西小学校の校舎を建て替えるため、箕面市は代替地を7882万円で購入して遺族会の所有する忠魂碑を移転し、その敷地を遺族会に無償貸与をしていました。
 これに対して住民らは、箕面市が忠魂碑が立つ土地に関して便宜を図る行為をすること、遺族会が主宰する慰霊祭に公務員である教育長が参加し、市職員や公費を使って準備をさせたことも政教分離に反するとして、箕面市長と教育委員会らに対して箕面市が被った損害の賠償を求める訴えを提起しました。

2 住民側の主張

 忠魂碑は、旧帝国在郷軍人会の各分会等が、戦没者を「忠君に殉じた英霊」として誉めたたえ、いわゆる神勅思想に基づく天皇制絶対主義と軍国主義を鼓吹する役割を果たしてきた。忠魂碑の前で拝礼をしている箕面市遺族会は、宗教上の組織または団体に該当することは明らかであり、慰霊祭も神道式または仏教式で行われているので宗教的活動に他ならない。
 だから、箕面市が行った移設や無償貸与は、宗教団体に特権を授与したものであり、慰霊祭に市長らが公の資格で参列し、市の職員が勤務時間中に準備作業に従事し、学校の校舎の一部や備品を利用することは、政教分離を規定した憲法20条、89条に違反している。

3 箕面市長らの主張

 忠魂碑は、地域出身の戦没者を追悼、記念するための記念施設にすぎない。慰霊祭も、特定の宗派性を持っておらず、同じような行事として千鳥ヶ淵戦没者墓苑での民間団体または宗教団体主催の追悼、慰霊行事、原爆慰霊碑前での広島市主催の原爆死没者慰霊式、平和祈念式などがあるので、問題ないはずだ。

4 最高裁判所の判決

忠魂碑は元来、戦没者記念碑的性格のものであり、特定の宗教とのかかわりは希薄であり、箕面市の各行為は、小学校の校舎の建替えのため、公有地上に存する戦没者記念碑的な性格を有する施設を他の場所に移設し、その敷地を学校用地として利用することを主眼とするものであって、そのための方策として、施設を維持管理する市遺族会に対し、施設の移設場所として代替地を取得して、従来どおり、これを施設の敷地等として無償で提供し、施設の移設、再建を行ったものであって、専ら世俗的なものと認められ、その効果も、特定の宗教を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められない。したがって、箕面市の各行為は、宗教とのかかわり合いの程度が我が国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず、憲法20条3項により禁止される宗教的活動には当たらないと解するのが相当である。また、遺族会は、特定の宗教の信仰、礼拝または普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体には該当しないものというべきであって、憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に該当しないものと解するのが相当である。
 よって、住民等の上告を棄却する。

5 慣習化した社会的儀礼

 今回のケースで、第一審では政教分離に反し違憲としたものの、第二審と最高裁では、忠魂碑は記念碑であって宗教的な性格はなく、遺族会も宗教活動を目的とする団体ではないので、憲法に規定された「宗教団体」、「宗教上の組織もしくは団体」にあたらず、教育長が慰霊祭に参列したとしても社会的儀礼の範囲内ものとして、政教分離原則に違反しないとしました。
 箕面市を訪れたときには、この忠魂碑を眺めながら、最高裁の判決を復唱すればより一層、理解が深まるかもしれませんね。

では、今日はこの辺で、また。


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