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娘の相続人廃除事件

こんにちは。

 今日は、娘が親に対して重大な侮辱をした場合に、相続人から廃除できるのかどうかが問題となった東京高決平成4年12月11日(判例時報1448号130頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 夫婦には、長男、長女、次女の3人の子どもがいました。次女は、生まれたころから強度の拒食症で、小学校に入学すると、友達の持ち物を盗んだり、家のお金を盗むようになり、小学6年生になると万引きをしたり、家出して警察に保護されたりしました。中学生になっても変わらなかったことから、戸塚ヨットスクールに通わせたり、スイスの寄宿学校に留学させユング研究所の診療を受けさせたりしたが、そこでも問題行動を起こして帰国することになりました。その後も非行はやまず、中等少年院送致の処分を受けたり、暴力団の組員と交際をしたりもしました。両親と次女との関係は、電話で話し合う程度で、ほとんど疎遠の関係でした。次女は、暴力団の男との結婚を両親が反対していることを知りながら、披露宴の招待状に招待者として父の名を印刷して、知人らに送付していました。そのため両親らは、次女による重大な侮辱または著しい非行があるとして、家庭裁判所に対して、次女を相続人から廃除することの審判を申し立てをしました。

2 東京高等裁判所の決定

 第1審では、長女の非行歴には、家庭環境にも相当の問題があったと考えられ、次女だけに責任があるわけではないとして、申立てを却下しました。これに対して、東京高裁は次のような理由で、原審判を取り消し次女を推定相続人から廃除する決定を下しました。

 民法892条にいう虐待又は重大な侮辱は、被相続人に対し精神的苦痛を与え又はその名誉を毀損する行為であって、それにより被相続人と当該相続人との家族的生活関係が破壊され、その修復を著しく困難ならしめるものを含むものと解すべきである。
 本件において、次女は、小学校の低学年のころから問題行動を起こすようになり、中学校及び高等学校に在学中を通じて、家出、退学、犯罪性のある者等との交友等の虞犯事件を繰り返して起こし、少年院送致を含む数多くの保護処分を受け、更には自らの行動について責任を持つべき満18歳に達した後においても、スナックやキャバレーに勤務したり、暴力団員と同棲し、次いで前科のある暴力団の中堅幹部と同棲し、その挙句、同人との婚姻の届出をし、その披露宴をするにあたっては、両親が右婚姻に反対であることを知悉していながら、披露宴の招待状に招待者として暴力団員の父と連名で父親の名を印刷して両親等の知人等に送付するに至るという行動に出たものである。そして、このような次女の小・中高等学校在学中の一連の行動について、両親らは親として最善の努力をしたが、その効果はなく、結局、次女は、両親ら家族と価値観を共有するに至らなかった点はさておいても、右家族に対する帰属感を持つどころか、反社会的集団への帰属感を強め、かかる集団である暴力団の一員であった者と結婚するに至り、しかもそのことを両親らの知人にも知れ渡るような方法で公表したものであって、次女との家族的共同生活関係が全く破壊されるに至り、今後もその修復が著しく困難な状況となっているといえる。そして、次女に改心の意思が、両親らに宥恕の意思があることを推認させる事実関係もないから、両親らの本件廃除の申立は理由があるものというべきである。
 よって、原審判を取消し、次女を両親の推定相続人から廃除する。

3 推定相続人からの廃除

 今回のケースで裁判所は、娘が虞犯行為を繰り返し、暴力団員であった者と婚姻しその事実を両親の知人に知らせるという行為が民法892条の「重大な侮辱」に当たるとして、推定相続人からの廃除を認めました。

 ただし、相続人の廃除がなされたとしても、廃除された人の子や養子に親の財産が代襲相続されることになっているので、注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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