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水都信用金庫事件

 こんにちは。

 競売物件の土地を手に入れたぞ~!喜んでいたら、実はその土地を自由に使えなかったといったことが起きる可能性があります。法定地上権という土地の上に建っている建物の所有者に土地を利用する権利が認められるからです。
 では、抵当権設定後に再築された建物についても法定地上権が認められるのでしょうか。今日はこの点を考える上で、「水都信用金庫事件」(最判平成9年2月14日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 東洋信用金庫は、河瀬知之が堺市中百舌鳥に所有する土地・建物に極度額600万円の共同根抵当権を設定しました。その後、建物が堺市副都心開発のための区画整理事業の対象となって取り壊されたときに、東洋信用金庫は、その土地について更地として担保価値を再評価し、根抵当権の極度額を2億1000万円に変更しました。その後、土地について競売が申し立てられ、東洋信用金庫から営業譲渡を受けた水都信用金庫が根抵当権を引き継ぎました。河瀬知之は、株式会社靜基と共同して、カラオケハウス専門ビルを建設することを計画して、株式会社靜基に土地を貸し、そこに新しいビルが建てられました。そのため、水都信用金庫は、河瀬知之と株式会社靜基との間の土地の賃貸借契約の解除と、賃貸借設定仮登記の抹消登記手続を求めて提訴しました。

2 水都信用金庫の主張

 私どもは、旧建物が取り壊された後に、土地を更地として評価して、極度額の増額を行ってきました。そもそも根抵当権設定当時には、新しいビルが建てられることを予測していなかったし、新しいビルを建てることについて承諾もしていない。そうすると、株式会社靜基が建てたビルについては土地を利用できるという法定地上権が認められないので、河瀬氏と株式会社靜基との間の賃貸借契約の解除などを求めることができるはずだ。
 また、問題となった土地について、更地で評価すると約1億8000万円、自分の土地に自分の建物が建っている建付地で評価すると約1億5000万円、借地権の負担を受けている土地を意味する底地で評価すると約7000万円となっています。もし、問題となった土地の競売で、底地を基準に最低売却価格が決定されてしまうと、建付地で評価されたときと比べて約8000万円の損が出てしまいまいます。そうすると、賃貸借契約の存在は私どもに損害を及ぼすことはあきらかです。

3 河瀬知之らの主張

 民法388条では、競売によって土地と建物の所有者が別々になったときに、建物の所有者に土地を利用する権利を認めると書いてあるんや。その条件として、抵当権設定当時にすでに建物が存在している必要があるが、この条件も満たしとる。しかも、大判昭和10年8月10日ちゅう判例によればなあ、土地と建物を所有する人が土地に抵当権を設定し、その後に建物を取り壊して再築した場合でも、新しい建物について法定地上権が成立するとされとるんや。そもそも水都信用金庫さんが抵当権を設定したときに、法定地上権がついている土地として評価してたはずやから、わてらは水都信用金庫さんには何の損害も与えてへんのとちゃうか。

4 最高裁判所の判決

 所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右土地上に新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたとき等特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しないと解するのが相当である。土地及び地上建物に共同抵当権が設定された場合、抵当権者は土地及び建物の全体の担保価値を把握しているから、抵当権の設定された建物が存続する限りは当該建物のために法定地上権が成立することを許容するが、建物が取り壊されたときは土地について法定地上権の制約のない更地としての担保価値を把握しようとするのが、抵当権設定当事者の合理的意思であり、抵当権が設定されない新建物のために法定地上権の成立を認めるとすれば、抵当権者は、当初は土地全体の価値を把握していたのに、その担保価値が法定地上権の価額相当の価値だけ減少した土地の価値に限定されることになって、不測の損害を被る結果になり、抵当権設定当事者の合理的な意思に反するからである。なお、このように解すると、建物を保護するという公益的要請に反する結果となることもあり得るが、抵当権設定当事者の合理的意思に反してまでも右公益的要請を重視すべきであるとはいえない。
 これを本件について見ると、原審が適法に確定したところによれば、河瀬氏は、水都信用金庫に対し、河瀬氏所有の本件土地及び地上の旧建物に共同根抵当権を設定したところ、その後、旧建物は取り壊され、本件土地を賃借した株式会社靜基が本件土地上に新建物を建築したというのであるから、新建物のために法定地上権が成立しないことは明らかであるのみならず、旧建物が取り壊された後、河瀬氏は、本件土地を更地として4度にわたって再評価をして被担保債権の極度額を変更してきたから、新建物のために法定地上権の設定があったとする当事者の意思を推定することができず、したがって、その後に株式会社靜基が河瀬氏から本件土地を賃借して建築した本件建物のために法定地上権の成立を認めるべきものではない。したがって、本件建物に法定地上権の成立が認められないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
 よって、河瀬氏らの上告を棄却する。

5 共同抵当と法定地上権

 今回のケースで裁判所は、所有者が自身の土地と建物に共同抵当権を設定した後に、建物を取り壊して新しい建物を建築した場合、新しい建物の所有者が土地の所有者と同一でかつ新しい建物が建築された時点で土地の抵当権者が新しい建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたなどの特段の事情がない限り、新しい建物について法定地上権は成立しないとしました。
 土地と建物の両方に抵当権を設定する共同抵当では、土地と建物の全体の価値を把握するしているので、再建築物については原則として法定地上権が成立しないという点に注意する必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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